P-1哨戒機はなぜ4発なのか

P-1
海上自衛隊のP-1哨戒機は国産エンジンを4基搭載した4発機である。
一方、アメリカの新型哨戒機P-8は、ボーイング737の改造開発で、エンジン2基の双発機である。
こうしたことから、飛行機ファンの一部には、なぜP-1が4発である必要があるのか、という疑問があるようだ。
本エントリでは、その疑問に答えたい。

まず、巷間で目にする間違った解釈を否定しておこう。

間違いその1
「国産の小型エンジンを採用するため、4発にした。」
これは話の順番が逆である。P-1の搭載するF7エンジンは、最初から「4発の哨戒機に搭載」することを念頭に開発したのであり、エンジンに合わせて哨戒機を開発したのではない。P-1哨戒機の開発にあたっては、そもそも4発であることが要求されているのである。

間違いその2
「飛行中にエンジン1基を停止してロイターするために4発にした。」
既存のプロペラ哨戒機P-3Cでは、エンジン1基(または2基)を停止して滞空時間を延長する「ロイター・シャットダウン」というテクニックがある。このことから、P-1も同じことをするのではないかと想像したのだろう。
しかし、これはたまたまP-3Cで可能であるというだけで、P-1で同じことができるわけではなく、そのために4発機にするようなことでもない。そもそもP-1は新規開発なのだから、当然4発健全でロイター時間の要求を満たすよう設計されている。

間違いその3
「経空脅威による攻撃に備えて4発にした。」
いちばん酷いデタラメがこれ。
まあ、いつものJSFさんとか、トンデモ系の人たちの主張である。
経空脅威というのは平たく言うと敵戦闘機のことだが、そんなものにミサイルや機関砲で攻撃されたら、エンジンが止まるとかいう以前に、機体が破壊してしまう。論外。

さて、P-1が4発なのは、洋上への進出と滞空にあたり、十分な余裕を持って運用可能とするためだ。
まず下図を見ていただきたい。
4発と双発の比較もし、パトロール海域からの帰投時、最悪のタイミングでエンジン1発が故障することを想定すると、哨戒機はある程度の余裕を持ってパトロールを切り上げる必要がある。このとき、4発と双発では必要な余裕に大きな差がある。
双発機の場合、エンジン1発が停止すれば完全な非対称推力での飛行になり、航続力が大きく損なわれてしまうため、早めに哨戒を切り上げて帰投しないと、万一のときに基地へ帰り着けなくなってしまう。
4発機であれば、1発が故障しても推力の左右非対称は最低限に留めることができ、双発機に比べて長距離を飛べるから、より長距離の進出や長時間の滞空が可能なのである。

もうひとつの大きな理由は、哨戒の継続性である。
海上自衛隊の哨戒機は、パトロール海域を絶え間なく継続的に哨戒することが求められている。哨戒監視が途絶えては困るのだ。
そのため、1機がパトロールを終えると、交代の次直機がパトロールを引き継ぐ体制をとっている。
しかし、双発機であった場合、エンジン1基が故障すると、発電量が半分になってしまい、哨戒機器の作動継続が不可能になり、哨戒が中断してしまう。
4発機なら、エンジン1基が故障しても発電量は3/4になるだけなので、次直機が到着するまで哨戒を継続することが可能だ。

つまり、P-1が4発なのは「P-3Cの後継機として、我が国周辺海域における常続的な広域の警戒監視や哨戒に使用する」という開発目的に最適化された結果なのである。


先進技術実証機X-2初飛行

防衛省が開発した先進技術実証機X-2が初飛行し、名古屋飛行場から岐阜基地へ空輸されるというので、岐阜基地へ出かけてきました。
ほんとうは4月20日に予定されていた初飛行ですが、飛行試験を実施する空域の天候が良くなく、延期されたものです。
地元新聞社が初飛行の予定を前日に報じていたこともあって、名古屋飛行場も岐阜基地も、X-2の飛ぶ姿を一目見ようという航空マニアが大勢詰めかけていました。

8:50頃に名古屋飛行場を離陸したX-2は、飛行開発実験団のF-2とF-15に随伴されて飛行試験を実施した後、岐阜基地に着陸しました。
着陸前には、1回のロー・アプローチを実施しました。
X-2

着陸時には、X-2の右側にF-2が随伴していたので、ツーショットが撮れました。
着陸するX-2

今後、製造元の三菱重工による飛行試験が、もう一回行われるようですが、その後は防衛省に引き渡され、本格的な飛行試験に入ってゆくことになります。


オスプレイの安全性を考える – フール・プルーフ設計

我ながら旧聞にも程があると思うが、2012年にモロッコで起きたオスプレイの墜落事故に関連して、ティルト・ロータ機の操縦システムにおけるフール・プルーフ設計について書こうと思う。

フール・プルーフ設計とは、安全性設計概念のひとつで、人間が「やってはいけないこと」をやってしまっても安全なように、あるいは、「やってはいけないこと」ができないように設計しておく、という考え方だ。
日本語では「馬鹿対策」などと汚い言葉で表現されることもあるが、人間は必ずミスをするものであり、本来すべきではない操作をやってしまうものだから、対策をとっておこうというのが、このフール・プルーフである。

さて、モロッコで起きたV-22墜落事故の概要は、以下のようであった。

1. 同機は海兵隊員12名を降ろした後、離陸して地上6mまで真っ直ぐ上昇、副操縦士が右ペダルを踏みこんで右回りのホバリング旋回に移った。
2. 高度14mほどでホバリング旋回を終え、そのままエンジン・ナセルを87°から71°まで前方へ傾けて、25ktの背風を受けつつ遷移飛行に入った
3. ナセルを前方へ傾けたことで重心が前方へ移動して機首が下がり、しかも追い風で水平尾翼が押し上げられ、機体は前のめりになって墜落した。

墜落の原因は、前進速度のない状態で、しかも25ktの背風を受けつつ、遷移モードに移行してしまったことである。

オスプレイの操縦マニュアルによれば、エンジン・ナセルを傾けて遷移モードに入るには、尾翼の下向き揚力が十分に得られるよう、まずヘリコプタ・モードで40kt以上の前進速度をつけなければいけない。
ところが、この事故においては、前進速度ゼロ(背風の影響を加味すればマイナス25kt)で遷移モードに入れてしまったため、頭下げが抑えきれずに前のめりに墜落したのだ。
正しいプロシージャ(手順)と事故機の事例を図示すると、下の図1のようになる。

図1. V-22の飛行モード遷移

図1. V-22の飛行モード遷移


ここで、パイロットがマニュアルに従って操縦していれば、当然このような事故にはならなかった。だから、事故の原因はパイロットの誤った操作というヒューマン・エラーである。
しかし、ここで起きたようなパイロットの誤操作は、十分危惧されるものだ。
なぜなら、遷移モードに移る前にヘリコプタ・モードで40kt以上まで加速するという操作は、必ずしもパイロットの直感にそっていないからだ。
図1の正しいプロシージャを見てわかるとおり、オスプレイの飛行モード遷移は、飛行状態のフェーズと一致していない。そのため、パイロットの直感的な操作として、加速フェーズに入る際、直に遷移モードに入れてしまうという誤操作が起きてしまったのである。

さて、ここで冒頭に触れたフール・プルーフについて考えてみる。
こうした誤操作で事故に至らないようにするには、40kt以下ではパイロットが操作しても遷移モードに入らないよう、操縦系統にプロテクションをかける方法が考えられる。誤操作を予期したフール・プルーフだ。
なぜオスプレイにそのようなプロテクションがないのか、防衛省の調査チームが照会したところ、遷移モードによる滑走離陸を想定しているためだとの説明があったようだ。
しかし、それならWOWスイッチ(Weight on Wheel Switch:車輪にかかる荷重を検知するスイッチ)を使うなどして、飛行状態にあるときだけプロテクションを効かせればよいのであって、必ずしも十分な説明ではない。
はっきり言えば、オスプレイの安全性設計に抜け穴があったとしか言いようがない。

では、現在開発されている民間向けのティルト・ローター機、AW609ではどうなっているだろうか。
先の図1に準じてAW609のプロシージャを示したのが図2である。

図2.AW609の飛行モード遷移

図2.AW609の飛行モード遷移


ご覧のとおり、機体の飛行モードは飛行状態フェーズに一致している。
更に、飛行モードの遷移は、V-22オスプレイのようにナセルの傾きをレバーで制御するのではなく、操縦レバーに付いたスイッチを押すごとに、ヘリコプタ・モード>遷移モード>飛行機モード と変化するようになっており、ヘリコプタ・モードから直に飛行機モードに入ってしまうような誤操作もおこらない仕様になっている。
オスプレイでは考慮されていなかったフール・プルーフが、AW609ではきちんと成立しているのだ。
少なくともこの点では、オスプレイの安全性設計がAW609に大きく劣っていることは確かだ。

もちろん、今回取り上げた内容が、直ちにオスプレイ配備基地の周辺住民に危険を及ぼすものと言い切れるとは限らない。
しかし、ティルト・ロータ航空機の安全性という観点では、重要な示唆を含む事故であったと言えるだろう。


ATD-X改めX-2の地上走行試験

2月11日、先進技術実証機ATD-X改めX-2の地上走行試験が、名古屋飛行場の誘導路および滑走路を使って行われました。
地上滑走するX-2
この後も、引き続き数回の地上走行試験が行われ、高速滑走、模擬離陸を経て、初飛行が行われることになります。
初飛行では、そのまま航空自衛隊岐阜基地に着陸し、機体は防衛省へ引き渡されることになるようです。
地上滑走するX-2
このX-2については本ブログでも何回か採り上げましたが、将来戦闘機の実現に向けては、まだ様々な課題があります。
とはいえ、本機によって大きな技術的前進がもたらされることは間違いなく、その成果が大きく結実することを祈ってやみません。

以下、本機について触れた主な過去エントリです。
先進技術実証機ATD-Xとは何なのか(その1) IFPC
先進技術実証機ATD-Xとは何なのか(その2) ステルス性
先進技術実証機ATD-Xとは何なのか(その3) 戦闘機エンジンの国内開発


中国の戦闘機用エンジン開発インフラについて

以前のエントリで、日本には戦闘機エンジン開発のインフラが整っていないことを示した。
具体的には推力15トン級の高空試験設備(ATF)がないということだ。
では、諸外国はどうなのか。
防衛省・自衛隊の平成14年度政策評価書「エンジン高空性能試験装置」の参考資料に、下表が示されている。
table
表中「空力推進研究施設」となっているのが東千歳に整備されたATFだが、空気流量70kg/secで、上限が5トン級に留まることは明らかだ。
他方、欧米のATFはケタ違いの能力を持っており、アメリカの施設などはF-35に搭載されるような推力20トン級エンジンにも対応可能だ。さすがである。

では、航空先進国と呼ばれる欧米各国ではなく、近隣諸国ではどうなのか。
特に中国では、既に推力13トン級のWS-10を実用化しており、更に推力15トンを超えるWS-15の開発も進んでいるとされている。
中国には戦闘機用エンジンを開発できるATFはあるのだろうか。

答えを言うと、少なくとも中国は推力13トン級に相当するATFを保有しており、WS-10はこの施設を使って開発されたと思われる。
先の資料には示されていないが、米国空軍が開示した資料に、その存在が示されている。
タイトルは「CHINA’S HIGH ALTITUDE SIMULATION TEST STAND FOR AIRCRAFT ENGINE UNDER CONSTRUCTION =中国が建設中の航空機エンジン用高々度試験装置」とあり、米国の防衛技術情報センター(DTIC)のサイトでPDFを閲覧できる

report
1988年に作成されたこの資料は、その前年に出された中国の刊行物を翻訳したものだ。
これによると、中国南西部に第101高々度設備(No.101 High Altitude Stand)と呼ばれるATFが建設されており、空気流量は120kg/sec、最大速度2.5マッハ、高度は25,000m(82kft)まで試験可能だという。
前掲の表にこの施設を書き足すと、下のようになる。
table2
この施設、建設着手はなんと1970年とされ、文化大革命で工事進捗は滞ったが、1980年には初期段階の試験が行われたと書かれている。
やっと最近になって5トン級ATFを整備した日本と比べれば、中国が非常に早くから航空機エンジンの自国開発を念頭に置いて、努力してきたことがわかる。
現在中国が開発中のWS-15を想定すると、このATFでもやや力不足の感があるが、おそらく既にこれよりも大規模なATFが建設されているのだろう。

巷間、中国の航空機は皆ロシア機や米国機のコピーだとか、中国には独自開発能力がないなどという戯れ言も耳にするが、こうした現実を知っていれば、彼らの技術力を見下すようなことはできないはずだ。
既に、中国の航空機開発能力は、その環境と経験において、日本を凌いでいることは明らかなのである。