先進技術実証機ATD-Xとは何なのか(その1) IFPC

旧聞に属するが、防衛省の先進技術実証機の初飛行が遅れるという報道があった。
ATD-Xとか心神とか呼ばれている先進技術実証機は、技術研究本部が研究試作した技術デモンストレータで、日本で初めてのステルス機だというので、話題になった飛行機だ。
しかし、技術的な観点で言うと、この先進技術実証機において実証される技術のキモは、ステルスよりも、むしろ「高運動性」を実現するIFPCの方だろう。
(その意味では、運動能力向上研究機として研究試作されたT-2CCVの系譜に連なるといえる。)
T-2CCV
IFPCというのは、Integrated Flight-Propulsion Control、要するに舵面制御と推力制御を統合することで、より高次元な機体運動制御を実現しようという技術。
この先進技術実証機の場合、ジェット排気口に推力のベクトルを変化させるためのパドルが付いていて、既存の操縦舵面が空力的な効きを失ってしまう低速飛行状態でも、機体姿勢をコントロールできるようになっている。
戦闘機は、格闘戦を行うと大きな旋回荷重に伴う抵抗増のために速度エネルギーを消費し、結果的に運動能力が低下してしまう。ドッグファイトの最終局面なんて、多くの場合は速度が低下してヘロヘロになりながら、ミサイルや機関砲を撃ったりするものだ。
しかし、推力偏向能力を持つIFPC機の場合、失速状態でさえ機体の姿勢を変えることができる。エネルギーを消耗しながら戦う格闘戦では、決定的に有利である。この能力を備えた戦闘機としては、アメリカのF-22やロシアのSu-37などが知られていて、いずれは中国の新鋭戦闘機J-20も同種の性能を持つだろう。
ATD-X風洞試験模型

ATD-Xの初飛行先送りは、推力を制御するプログラムに問題が見つかったことと、飛行中にエンジンが停止した場合の自動再始動プログラムの追加が理由だという。
上述した推力偏向による姿勢制御では、推力の大きさと向きによって機体の姿勢が制御される。つまり、この飛行機における推力制御プログラムというのは、従来の航空機とは違って、単に推力の増減を制御するだけではない。飛行制御プログラムと一体の、非常にクリチカルな要素だ。
また、推力偏向による高機動性が発揮される飛行領域では、低速で飛行迎え角が大きく、エンジンの燃焼が不安定になりやすい。たとえ双発機であっても、エンジンの不時停止が大きなリスクとなることから、自動再始動システムは安全確保のために重要な機能である。

これらのことから、報じられている不具合はATD-Xにとって非常に重要な技術要素に関わるものであり、飛行延期は当然のことだろう。問題は、不具合がどの段階で明らかになり、どこまで解決の目処が立っているかということだ。
不具合による延期が報じられたのは、初飛行が予定されていた2015年1月の直前だったが、この時期になって不具合が発覚したということはありえない。しかし、これほどクリチカルな要素における不具合は、単に小手先の改修で解決できるはずもなく、かなりまとまった規模のコードを一から書き直し、各レベルでのシミュレーションもやり直すことになるだろう。

問題が発覚した状況について具体的な報道はないので、手戻り作業や改修の規模は見当がつかないが、この3月になっても、ATD-Xは地上滑走試験も始めていないようだ。半年程度の遅れで済めば良いと思うが、この状況を踏まえると、計画から1年程度の遅れもあり得るのではないかと思う。

関連してるかもしれない記事:


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です