オスプレイ安全論と反知性主義(軍事ブロガーという厄介な大衆)

反知性主義が台頭している。
江戸しぐさ、水からの伝言、EM菌などのデタラメが教育現場にまで入り込み、在日特権というデマを信じて恥知らずな行為を働く者があり、南京事件否定論などの歴史修正主義が日本の名誉と国際的立場を危うくしている。
いずれも専門家には否定されている「トンデモ」系の言説だが、これらに親和的なのが現在の安倍内閣で、その体質を示すように、憲法違反だという識者の指摘をよそに、安保法案を躊躇なく強行採決した。僕たちは、まさに反知性主義の時代に生きている。

「反知性主義」の根底は、「専門教育や知的訓練を受けていない大衆でも、知識人や専門家と同じように批判能力がある」という”誤った平等思想”であり、民主主義は衆愚政治に陥る危険を常に孕んでいる。
そしていうまでもなく、現代の反知性主義に力を与えたのは、インターネットの登場による無秩序な情報発信の加速である。なんら専門的知識の裏付けもなく、検証さえもされずに書かれた与太話が、あたかも一廉の論考であるかのように撒き散らされている。

忌々しいことだが、僕が飯を喰ってきた航空機技術の世界に関しても、反知性主義による情報汚染が起きている。
軍事ブロガー()と称する軍事オタクなどがまき散らしているオスプレイ安全論などは、その筆頭だ。

[防衛省資料よりオスプレイ事故率データ(2012年版) JSF | 軍事ブロガー]

たとえば上記の例では、航空工学はもとより、安全性工学の知識も全くない素人(ただの軍事マニア)が、防衛省がネットで公開した「事故率」という指標だけを採り上げて、あたかもオスプレイの安全性に問題がないように論じている。反知性主義の定型である「ネットde真実」というやつだろう。

以前も簡単に書いたが、事故率というのは単に運用実績の統計であって、航空機の安全性を保証する尺度などではない。

オスプレイの安全性に対する懐疑論というのは、これまでに存在しなかったティルトローターというカテゴリの航空機について、安全性の根拠となる設計基準が明確で無いことに由来している。
この記事の主張を他に例えるなら、近代医療とホメオパシー治療の事故死亡率を比べて、ホメオパシーが適正な医療行為だと言っているようなものだ。

航空機の設計開発経験もなく、専門の工学知識も学んだことがない素人が、市販の雑誌やネットで漁ったネタで好き勝手のデタラメを綴ったブログを書き、「軍事ブロガー」を名乗って寄稿しているのが、こうしたバカバカしい記事なのである。
ホメオパシーやEM菌などのインチキは”疑似科学”と呼ばれたりするが、こういう軍事オタクの吐くデタラメはさしずめ”擬似技術論”とでも言うべきだろうか。
もちろん、同様のデタラメを書いているバカは他にもいるが、この筆者は特に悪質(低レベル)だと思われ、航空以外の分野でも痛烈な指摘を受けているようだ。

素人が書いていることにいちいち目くじらを立てても仕方がない、とも思うのだが、そういう態度が、江戸しぐさや、EM菌、在日特権などのデタラメが跋扈することを許してしまった。インターネットが大きな影響力を持つ現代では、こうした反知性主義に断固として異を唱えることが、専門知を持つものの責務であろうと思う。その見地から、なんの知的訓練も経ていない軍事ブロガー()らのデタラメを許すつもりにはなれない。

もとより専門的な社会的立場を持たないブロガーなどにとっては、金銭的報酬などほとんどなくても、メディアへの寄稿は承認欲求と自尊心を満足させるため、簡単に飛びついてくる。メディア側も、プロの執筆者に依頼しなくても簡単に素材を得ることができて好都合だ。この浅ましい構造によってグレシャムの法則が簡単に発動する。
社会的な影響を考えれば、こうした現象は憂うべきことであり、デタラメな連中に放言の機会を与えるネットメディア(本事例のYahoo!など)や一部の出版社などには、猛省を促したい。
また、諸賢におかれては、くれぐれもこういう手合のデタラメを真に受けることのないよう、健全な情報リテラシーを培っていただきたいと思う。


オスプレイ安全論と反知性主義(軍事ブロガーという厄介な大衆)」への19件のフィードバック

  1. どうも、最近更新頻度高いですね

    事故率=安全性は非常に短絡的だとは思いますね
    それこそ同じ機体を使ってても航空会社ごとに事故率は大きく違うように、事故を起こさないようにしている当事者方の努力あっての安全ですからね
    自衛隊も完全無欠の組織ではありませんし、陸ですが最近はヘリの墜落が増えてます(耐用年数の問題もありますが)
    自衛隊に導入されるからと言って、すべての装備が最良ではないのですからオスプレイくらいは反対してもいいと思うんですがね

    ただ、反対意見の最先鋒の低周波も色々物議を醸しだすものですから左右両方とも、もう少し落ち着くべきだと思います

  2. あ、低周波に関する専門家の意見?調査?を以前に発見したので張っておきます

    ttp://www.noe.co.jp/technology/35/35news2.html

    1. コメントありがとうございます。
      仰るとおり、安全性工学は幅の広い内容を扱います。
      安全性設計においては、ただ故障が起こらないだけではなく、運用環境も考慮のうえで、人間が誤った操作をしないように、また、誤った操作をしても事故につながらないような設計が求められます。
      オスプレイ(ティルトローター機)は運用者にとって革新的な利便をもたらしますが、安全性の面からはまだまだ完成していない技術と言えます。
      だからといって「絶対に使ってはならない」というわけではないのですが、普天間のような人口密集地で運用することの妥当性は、ティルトローター技術を深く知る人ほど疑問を抱くのではないかと思っています。
      あと、低周波騒音の調査、興味深いサイトの紹介をありがとうございます。
      こうした具体的検証は大事ですね!

      1. 安全工学分野のみならず 技術一般が その用いられる現場との関係性でしか『良否』の評価出来ませんよね。
         オスプレーだって当分民間機として運用されることは無いでしょう。 戦争機械としてのみ『良』という事。

        1. トマトさん、コメントありがとうございます。
          民間向けティルトローター機の安全性基準は、すいぶん前から長い時間をかけてアメリカFAAで議論されています。
          オスプレイの経験も踏まえて策定されていると思いますが、現状のオスプレイはこの安全性基準を満たせないだろうと思います。
          オスプレイは、あくまで「米軍が自身の基準に照らして納得の上で使っている」というだけなのですが、その米軍自身の基準(MILスペック等)についても、ティルトロータ機の基準が明確でないのが問題の種です。

          私自身、オスプレイそのものの運用を否定しているわけではありませんが、きちんとした技術的議論ができていない現状を憂えています。

          本エントリは、予想以上に反響が大きかったので、いずれ補足するエントリを書いていきたいと考えているところです。

  3. そこまで言われる以上、「オスプレイは危険だという”具体的な”根拠のデータ」を反証として出されるのでしょうね?
    実用的な運用がされてさえ、すでに10年がたってるのですから「運用期間が短いからまだ未知数」という理屈も成立しませんが。テスト期間を含めればもっと長い年月

    それなして、「安全性に今のところ問題ない。データもだそろっている」という主張を否定しても、それこそ「EM菌の効能や江戸しぐさの実在も、存在する可能性はありうるから、それを主張するのは正当だ。否定する方が間違いだ、反知性だ」と主張するのとそっくり同じになります。

    はっきりいうと、データを一通りそろえて安全性を主張してる相手に、具体的反証データ皆無で反知性主義のレッテル貼りするあなたの方が、反知性主義そのものにしか見えないのですが。

    1. kenさん、コメントありがとうございます。
      まず、記事を読んでいただければわかるはずですが、私は「オスプレイは危険だ」と言いたいのではありません。
      (誤解を恐れずに言うと、安全性工学の立場では「すべての航空機は危険である」というところが出発点ですが)
      私は、墜落件数が少ないから安全(安全性に今のところ問題ない。データもだそろっている)というのが、そもそも間違った考え方だ、と言っているのです。
      航空機設計における安全性保証については、市販の教科書も(特に和書では)ほとんど存在しないと思いますが、まずは安全性工学の本を読んでみることをお勧めします。(本当に自分の頭で考える気があるのなら、ですが)

      1. つまり、故障や墜落、大きな事故の可能性は常にゼロではないと?
        いや、そんな当たり前のことを言われても。

        特定の自動車の安全性の話をしていて、「その自動車は欠陥車だといわれているが、運用実績から特別問題ない」という話に、「自動車を運用していたら故障や事故の可能性は常にある」といわれても、”そんなのは当たり前だ。そんな話はしていない。あくまでその自動車に特別問題があるかどうかという事だ”と(おそらくバカ扱いして冷ややかな目で見られながら)言われますよね。

        あなたが反知性主義呼ばわりしてる相手も、あくまで他の航空機と比べて特別危険ではないと言ってるだけですが。

        あなたの言われてることは、無茶苦茶だ。

  4. こんにちは。初めて投稿します。

    趣旨としては理解できますが、批判としては不十分と考えます。

    何故ならば、JSFやその取り巻きは様々な権威を利用して気に入らないものを叩いてきた訳ですし(当エントリの場合は防衛省)、そういう反知性主義の輩を権威や玄人の側が利用してきた側面もあるからです。

    JSF一党で例示すると該当する「玄人」は、現役自衛官、兵器メーカー技術者、原発技術者、ITエンジニア、ゼネコン社員、法学准教授等を称する者達が当て嵌まりますし、
    彼に媚びている軍事系の売文屋などもそうです。彼等があそこまで増長出来たのはそういう困った人達がバックにいるからですよ。「疑似科学」という言葉もトンデモ学会なる集団が広めて、JSFのような連中が散々利用してきたのです。でも結局菊池誠ののような疑似科学批判の連中も原発事故で躓き、オスプレイ辺りからは軍クラやネット右翼とつるむようになってしまった。

    このように、「専門家」や「玄人」が下らない論理のすり替えをしたり、雑な仕事をしたり、門外の分野でその辺のネット弁慶並に雑なツイートをすることは頻繁に起きている。

    それを考えると「あいつは素人」「知的訓練」「工学知識」とった、ある意味どうとでもとれる言葉を投げて議論の参入障壁を高くしても、同じ問題を繰り返すだけのような気がします。問題は素人の側だけでなく、肩書き玄人の側にもあるのですが、貴殿からは余りその視点が伝わってきませんね。

    1. 岩見様
      コメントありがとうございます。
      ご指摘の点も含め、批判として不十分な点があることは認識しています。
      「軍事系の売文屋」というのも、メディアがインターネットでなく既存紙媒体だというだけで、殆どの場合、内実は「軍事ブロガー」と同じです。
      こちらの過去エントリなども参照いただければ幸いです。→ http://booskanoriri.com/archives/647
      こういう状況については、諸事情により職業専門家が十分に情報を発信できないことが原因のひとつです。
      また、専門的な知見というのは、大抵の場合、ブログや雑誌記事程度で一般の方に説明することが難しいのも事実です。
      難しい問題だと思っています。

  5. おはようございます。JSFさんは航空管制に関しては全く不勉強です。特に計器飛行方式(IFR)と計器飛行の区別もまったくつかないようです。オスプレイ関連の用語を検索するとJSFさんの無知さがさらけでています。

    1. JSFさんの航空機技術や運用に関する知識は、たぶん「航空なんとか」などの一般雑誌とか、ネットに落ちている断片情報がネタでしょうから、そうだろうなと思います。
      「軍事」とか「航空」なんかではなく、ご自分の専門分野について書かれればよいと思うのですが、どういう職業の方なのでしょうね?

      1. Twitterを始める前は毎日長文のブログを数時間かけて書いていました。
        同時にmixiでコメントを沢山つけていたようです。
        その後は一日100ツイート以上を費やし「議論」なるものを行い、
        艦これ登場後はプレイの実況、攻略法、元ネタ等について膨大な投稿をしていることから、「無職か短期雇用」と推定されていますし、本人も否定していません。dragoner氏がネット収入だけで2年生きたとツイートしていた時は彼を参考にしているようでした。

        どうせ詭弁で話題ずらしするのですし、彼に付き合っていたら有職者は生活が破たんしてしまいます。

  6. すごいなあ

    ここのコメント欄「反知性主義とレッテル貼りをする方々の方が、反知性主義の典型」を見事に実演する方々が複数だ。

    「そんなに反対したいなら、屁理屈をこねまわしていないで、問題になっている事例について、対象の人物が出している証拠のデータなどに対して、具体的な反証データを出せ」と、散々言われてきたようなことをしつこく言い張る方々が複数だ。
    ブログ主氏を筆頭に、それこそ、EM菌の効能とか江戸しぐさの歴史的実在とかをしつこく言い張る方々と、そっくり同じ論法に固執してますね。

  7. JSF氏に関してはまあ、「人間的にはいけ好かないが、主張の根拠は整えて明確に出しているのでその点ではおおむね信頼できる(絶対正解もそりゃないが、なら個別にそれを指摘すればいいだけの話)」「むしろ、JSF氏のを批判してる方々の大半の方が、まっとうに反証を挙げての反論ができないから、屁理屈を並べて負け惜しみや誹謗を垂れ流しているだけにしか見えず、まるで信頼に値しない」「このブログ記事とついてるコメントがその負け惜しみの屁理屈誹謗の典型」としか言いようがないですね。
    ブログ主氏の言うところの「自分の頭で考えた結果として」

  8. 安全かどうかは運用する自衛隊によって変わってくると思います。
    開発元の米軍も整備上の問題やパイロットの操縦ミスから墜落してます。
    自衛隊に導入する以上、事故率以上にいろいろ見ないといけないと自分は思います。データ持って来いと言っても自衛隊での運用実績はありませんし、安全面も事故率以上のデータを防衛省が掲示しない現状、あまり議論のしようがないと思います。

    とりあえず、両氏とも落ち着いてください。そんな喧嘩腰では誰も得をしません。

    1. 運用にもよる、というのは実にそのとおりで、たとえ設計上は問題ないと判断されても、実際の運用で事故が起きることもあります。
      モロッコでの墜落事故などは典型例ですね。
      こういう課題などを抽出して、設計や運用の改善対策、そして評価の繰り返しを行わなくてはいけません。

      安全性工学では、こうしたプロセス全体が評価の対象になります。一時点の事故率は、こうしたプロセスを評価する指標(材料)のひとつになりますが、安全性の評価はプロセスの結果全体に対して下されるものなのです。

      ですがら、安全性を正しく議論するには、対象要素が非常に多岐複雑なうえ、それぞれの要素で専門的な議論が求められます。
      ブログのエントリで説明できることは限られてしまいますが、機会があれば断片的な話だけでも書いていけたらいいな、と思います。

      1. ありがとうございます。反対派も賛成派も結局、オスプレイをよくわかっていないという状態なので、技術的説明があると非常に助かります。JSF氏もTwitterで説明が欲しいとツイートしておりました。

        僕はJSF氏は自衛隊のオスプレイ導入に懐疑的だったり、専門的な分野に突っ込まなければ良識的な方だ思います。ただ、問題として一部の住人がJSF氏を信奉し、正論という正義を振りかざして他ブログで暴れていくのは少しどうかと思います。一方的に勝利宣言して逃げていったのには唖然としました。

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