オスプレイの安全性議論に思うこと

普天間に配備予定の米海兵隊機「オスプレイ」について、その安全性が問われています。
世論に興味が湧いたのでwebで調べてみると、新聞から個人サイトまで、飛行時間あたりの事故件数(Class A Mishapの件数)を挙げて、従来機よりも危険だとか安全だとか論じている論説が目につきました。この論法は、比較的容易に収集できる資料から、誰にでもわかりやすい数字を組み立てられるので、そういうことになるのだと思います。
どちらの立場にとっても、こうしてできた数字は、相手を説得する道具に使いやすくて便利ですが、技術的に安全性を議論する材料にはなりません。早い話、「今まで墜落してないから、この飛行機は安全です」のような説明では、航空局の型式承認や軍の制式承認さえ降りないわけです。当たり前ですが。
一般論として、航空機のシステム信頼性を技術的に検討するにあたっては、FTAやFMECAという手法で、起こり得る故障モードや致命度を整理します。また、致命的な危険をもたらす要因を分析整理するハザード解析を行い、事故原因となる要素を洗い出します。
そして、特に飛行に致命的な影響を与える(Flight Critical)系統・部品については、それぞれ満足すべき信頼度を要求し、その達成を求め、管理します。各系統の信頼度が、総合的に機体全体の信頼度(飛行安全性)を構成するわけです。
しかし、ヘリコプタと固定翼機の特徴を併せ持つ、オスプレイのような「ティルト・ローター」機は、従来形式の航空機よりもフライト・クリチカルな要素が多くなります。すなわち、従来機と同レベルの信頼性を確保するためには、各系統に要求される信頼性が、従来よりも遥かに高いと考えられるのです。古くから構想があったにもかかわらず、長らく「ティルト・ローター」機が実用化できなかったのは、それが大きな理由のひとつです。
もし、オスプレイの仕様に由来する飛行安全性を技術的に議論しようとするならば、FMECA等に基づく信頼性基準と、同基準にもとづいて設定されたクリチカル部品の信頼性実績が、議論の基礎になり得るでしょう。
また、運用の現場では、当然それらのデータに基づき、オスプレイの稼働率や安全性の向上に努めているはずです。
普天間の問題に関して言えば、せめて周辺住宅地で問題になる離着陸フェーズについてだけでも、日米の専門家による検証が行われて然るべきだと思いますが、実態はどうなんでしょうか。私が知らないだけならよいのですが、技術的な検証・議論は遠ざけられ、「説得のための数字」だけが並んでいるような気がします。
(もちろん、反対派も「反対のための数字」や「情緒的な理由」を並べているだけです。そもそも彼らには技術的な議論の材料がないです。)
オスプレイの配備は、安全保障上の必要から決定されたもので、それ自体には、私自身、賛成や反対を唱えるものではありません。しかし、飛行安全性は明確に航空工学の範疇なので、一般に全面公開できなくてもいいから、もっと技術的な議論や説明があればいいのになあ、というのが正直な気持ちです。
(作戦用航空機の信頼性データなんてものが、そう簡単に出せるものでないことは分かりますが、普天間配備の円滑な実現も、日米双方の重要な関心事であるはずです。)
それに、「今回の事故は操縦ミスだから、機体の仕様に問題ない」という説明は、上記の技術的議論を踏まえ、更にパイロット・ワークロードの検証までしたうえで、ようやく説得力を持つのではないかと思うわけです。
なお、ネット上で「ティルト・ローターなんか昔からあるアイデアで、新機軸でもなんでもないじゃんか」と議論を切り捨てる発言も目にしました。こういう人達は、飛行機に詳しいと自認していて「俺はティルト・ローターなんか昔から知ってるよ~」と言いたいのかもしれません。
でも、オスプレイは初の実用ティルト・ローター機であり、間違いなくフロントランナーです。先進技術の開拓に対する敬意に欠けるとともに、普天間の人達に対しても思いやりを欠く発言で、日本人として残念に思ってしまいます。
革新技術は天から降ってきませんし、安全は努力の継続で支えられています。
科学技術の成果を享受する我々は、謙虚さを忘れることなく、歪みのない目で新しい航空機を見守りたいものです。

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