陸自UH-Xは再度の機種選定で富士重工案(ベル412)に決定

いったんは川崎重工による新規開発が決定したものの、防衛省担当者による同社への情報リークなどの不祥事が明らかになり、再度仕切りなおしとなった陸自向けUH-X(新多用途ヘリコプター)の機種選定。新規開発を断念して既存機ベースの提案を各社に募り、選定作業が行われた結果、富士重工案が採用決定となりました。
陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)の開発事業者決定について(防衛省発表 2015/7/17)

FHI案UH-X想像図

採用された富士重工の提案は、ベル412型をベースに陸自向けの改修を施すもので、製造については富士重工によるライセンス生産が行われるものと思われます。
ベル412型は、日本国内でも警察庁や海上保安庁で採用されているほか、各自治体の防災ヘリ、民間事業者使用機など、多数が使われている実績があります。
調べてみると、2015年6月現在で、既に抹消済みの機体を含めて83機の登録実績があるようです。
日本の民間登録航空機データベース JA Search 検索結果

ベル412は、既に陸自で運用しているUH-1シリーズと同系列の発展型でもあり、あまり目新しさはないかもしれませんが、安心して導入できる機種と言えるかもしれません。
今後の開発・調達がスムーズに進むことを祈りたいと思います。


2014年 明野駐屯地航空祭のTH-480B

陸上自衛隊がTH-480Bの名称で導入したエンストロム480、まだ見たことがなかったので、明野駐屯地の航空祭で見てきました。
陸自機らしからぬメタリックブルーの機体なので、日の丸やロゴがなければ民間機のようです。

明野の展示飛行は大編隊飛行から始まるので、まず参加機が一斉に離陸していきます。
離陸

大編隊での航過が終わると、レインボーと名付けられたチームによるデモフライトが行われます。
今回のレインボー・チームはTH-480Bが5機参加しています。
レインボー

フライトを終えて帰ってきたところ。
TH-480Bのどことなく愛嬌のある姿。おたまじゃくしのようです。
タキシーバック

搭乗員が白い手袋で手を振ってくれています。
TH-480B

エプロンでも1機が機内を公開していて、順番待ちの長い行列ができていました。
その機体のローターハブです。
中空になったマストの中をコントロール・ロッドが通っているので、他機種に比べるとローターマストの周りがすっきりしています。
ローターハブ

今回の明野航空祭、警察のヘリコプター以外には民間機の展示はなく、自分にとっては少々寂しかったのですが、好天のもとでTH-480Bが見られたのが収穫でした。


MH-60S墜落事故とテイルローター喪失について考えてみた

米軍のH-60ヘリコプターが不時着失敗、大破したというニュースがあった。
乗員が負傷したものの民間に被害はなく、最悪の事態は免れている。

初期の報道では、乗員がトランスミッションの異常を訴えていたというので、潤滑オイルの喪失が原因ではないかと推測している有識者もあるようだ。
しかし、本機を含む近年の軍用ヘリは、オイルを喪失しても、相当の時間は正常に飛行が可能だ。
調べてみると、H-60の初期型で30分、本機を含む最新型では45分以上のドライ・ラン性能を備えているらしい。
(我が国のOH-1も30分のドライ・ランが実証されていると聞いた記憶がある)
オイル喪失の可能性は僕も否定しないのだが、それだけで即座に深刻な事態に陥るとは考えにくく、致命的な要因は他にあったのではないかと思う。

不時着現場は三浦半島の先端にある埋立地で、少なくとも乗員には着陸場所を選ぶ余裕があったことがわかる。
しかし、それにも関わらず、ヘリは広い空き地の真ん中ではなく、よりによって道路際に横転している。
これは、不時着の時点で本機が通常の操縦性を失っていたことを示しているのではないか。

後の報道では、本機はテイル・ローターが止まってしまったとも伝えられているので、それなら、最後の最後に操縦性を失って横転したのも納得できる。
むしろ、テイル・ローターの効きを失っていたとすれば、この程度の事故で済んだのは不幸中の幸いとも言えるだろう。

通常のヘリコプターがテイル・ローターを喪失すると、主ローターの回転力(トルク)を打ち消す力が足りなくなるので、機体がぐるぐる回ってしまう。
これを止めるには、前進速度で発生する空気力による「風見安定」に頼るしかない。
つまり、テイル・ローターを失ったヘリコプターは、速度を落とすとぐるぐる回って落ちる。
静岡ヘリポートの付近で墜ちたNHK報道ヘリEC135も、試験飛行で墜ちた三菱MH2000も、テイルローターの効きを失いつつも不時着現場にたどり着き、そこで速度を落として墜落している。
ともに人命を失う痛ましい事故だった。

ヘリコプターがテイル・ローターを失って方向操縦を失った場合、普通に着陸することは不可能だ。
しかし、方向操縦を失ったヘリコプターが、機体は大破したものの、乗員は軽傷のみで生還したケースがある。
静岡ヘリポートを飛び立った朝日航洋のMD900が、テイル・ローターの働きをするべき「ノーター」の機能を失ったものの、厚木基地に「滑走着陸」による不時着を行った事例である。 事故調査報告書(PDF)
このMD900は、前進速度を保ったまま基地のエプロンに滑り込み、機体を大きく横転させることなく不時着することができた。
条件によって、こうした不時着方法が不可能な場合もあるだろうが、ヘリコプターが不幸にも方向操縦を失った場合の対処法として、示唆するところが多いのではないかと思う。

さて、米軍の駐留を歓迎するかどうかという立場を越えて、国民(や乗員)の安全を守るためにするべきことは、「事故原因の究明と再発防止策の徹底」に尽きる。
しかし、今回の事故でも、原因もわからないうちに乗員を称える軍人びいきの人たちが湧いていて、これだけは本当に気持ちの悪いことだと思う。
なんとかならないものだろうか。


墜落したHH-60ヘリコプターの放射性物質とは

※オスプレイの話ではありません。

沖縄タイムスの記事によると、キャンプ・ハンセンで墜落した米空軍のHH-60ヘリコプターには、「飛行中の回転翼のひび割れを調べるセンサー」用に(放射性物質の)ストロンチウム90が使われていたのではないかという。
(追記:沖縄タイムスは続報を出しており、米軍によるとHH-60にはストロンチウム90は使われていないそうです。)

「飛行中の回転翼のひび割れを調べるセンサー」というのは、シコルスキー社のIn-Flight Blade Inspection System (IBIS)というものだ。H-53シリーズだけでなく、H-3/S-61シリーズのヘリコプターにも、少なくとも一部で採用されていた。これは普通に知られているもので、秘密でもなんでもないから、Googleで検索すれば親切な説明資料も出てくる。
これを装備するヘリコプターのブレード(回転翼)は中空に作られていて、内部には大気圧よりも少し高い圧力で窒素が充填されている。そして、各々のローターには、蓋(プラグ)をするような形で、IBISのプレッシャ・インジケータが取り付けられる。
下の図がIBISのプレッシャ・インジケータで、左図は放射線抑制効果のあるカバーを付けた状態、右図は運用時にカバーを外した状態である。
IBIS
もし、ブレードに何らかのダメージで亀裂が入ると窒素の圧力が抜け、プレッシャ・インジケータのスイッチが作動する。すると、インジケータに黒い2本のラインが現れる(左図の状態)ので、停止中であれば目視で異常が確認できる。
また、それと同時に内蔵されたストロンチウム90から放射線が出るので、飛行中であっても機体に取り付けられたセンサーが反応して警報を発する。こうして、目視点検できない飛行中でも、乗員がローター・ブレードの亀裂(クラック)を検知できるというわけだ。

このIBISは当然ながら海上自衛隊のMH-53にも装備されていて、ローターが静止していれば、それは外観からも容易に確認することができる。
下のサイトにある写真で、MH-53のローターの付け根に、カバーの付いたIBISプレッシャ・インジケータが付いているのがよく分かる。
http://homepage3.nifty.com/run2das/peacemh53monndai.html(るんるんのピースレポート)
もしIBISを装備したヘリコプターが墜落した場合、現場救助や回収にあたる人員に対しては、もちろん放射線の危険を周知することになっている。
当然、関係機関にも通知されるだろうし、それは然るべく公表されることになるだろう。沖国大事故の際もそうだったと思う。

さて、それではHH-60にIBISは装備されているだろうか?
H-60シリーズは、H-3やH-53と同じシコルスキー製のヘリコプターだ。そして、HH-60にIBISがあれば、陸海空自衛隊で使用しているUH-60やSH-60にも装備されている可能性が高い。
しかし、ちょっとネットあたりで調べても、H-60シリーズにIBISが付いているという話は拾えなかった。H-60シリーズに装備されているのは、ストロンチウムを内蔵しないBIM(Blade Inspection Method)インジケータのようだ。下写真で赤丸や矢印を付けたのがそれだ。
HH-60のハブ
(写真はhttp://www.aircraftresourcecenter.com/awa01/401-500/awa461-UH60-Spenard/00.shtmから拝借した)
そんなわけで、私はHH-60にIBISの装備はないのではないかと思うが、本当のところはどうなのだろう?(ヘリコプター屋に聞いてみればいいのだろうけど。)

ただ、ヘリコプターのローターに放射性物質を使うケースとしては、IBISのようなデバイスではなく、マスバランス(重量バランスをとるための錘)として劣化ウランなどを使っていることも考えられる。
ネットで検索してみると、2006年に「赤旗」紙が、普天間でも飛んでいるCH-46に劣化ウランが使われていることを報じていたそうだ。

実を言うと、私自身も折損したローターブレードの処理に関わったことがあって、その際に自衛隊関係者から「放射性物質」のことを耳打ちされたことがある。(事後だったけど)
今回の報道でそんなことを改めて懐かしく思い出したので、昔調べた話をネタにして、ちょっとエントリを立ててみた。

【8月10日 追記】
上で触れた沖縄タイムスは、このエントリを書いた翌日に続報を出しており、やはりHH-60にはストロンチウム90(ひいてはIBIS)が使われていないようです。
同報道では、前方監視赤外線カメラ(FLIR)のレンズにトリウムが使われていることを指摘していますが、これにはストロンチウム90のような危険性はありません。放射性物質としての規制を受けるようなレベルでさえないと思います。
ちなみに、部品防錆などのために施される「ストロンチウムクロメート」処理というのがありますが、これは放射線が問題ではなく、含有される六価クロムが理由で有害物質とされているものです。いろいろややこしいです。


陸自次期多用途ヘリコプター(UH-X)国内開発へ

WING DAILYによると、陸上自衛隊の次期多用途ヘリコプター(UH-X)は国内開発される方針が決まったようです。
既に、防衛省ではUH-Xの国内開発に向けて準備を進めてきており、OH-1に搭載しているTS1エンジンの発展型(XTS2)の研究試作や、耐衝撃性機体技術の研究など、要素技術の獲得が進められています。
一方、機体メーカー側では、独自国産ヘリOH-1の製造会社である川崎重工業が、同機種を基本にした多用途ヘリを防衛省に向けて積極的に提案してきているようです。
これに対し、現用機種であるUH-1の製造会社、富士重工業は、内外で実績豊富な米国製ベル412の導入を提案していたと言われています。その後、UH-1Jの改造開発を提案してるんですって。
まだ開発担当会社の選定段階ではありませんが、このまま行けば、川崎重工業の提案に基づいたUH-Xが誕生する可能性が高そうです。OH-1に続く傑作ヘリコプターの誕生に期待したいと思います。
・・・まあ、見られるのは早くても数年後なんですけどね。