先進技術実証機X-2初飛行

防衛省が開発した先進技術実証機X-2が初飛行し、名古屋飛行場から岐阜基地へ空輸されるというので、岐阜基地へ出かけてきました。
ほんとうは4月20日に予定されていた初飛行ですが、飛行試験を実施する空域の天候が良くなく、延期されたものです。
地元新聞社が初飛行の予定を前日に報じていたこともあって、名古屋飛行場も岐阜基地も、X-2の飛ぶ姿を一目見ようという航空マニアが大勢詰めかけていました。

8:50頃に名古屋飛行場を離陸したX-2は、飛行開発実験団のF-2とF-15に随伴されて飛行試験を実施した後、岐阜基地に着陸しました。
着陸前には、1回のロー・アプローチを実施しました。
X-2

着陸時には、X-2の右側にF-2が随伴していたので、ツーショットが撮れました。
着陸するX-2

今後、製造元の三菱重工による飛行試験が、もう一回行われるようですが、その後は防衛省に引き渡され、本格的な飛行試験に入ってゆくことになります。


オスプレイの安全性を考える – フール・プルーフ設計

我ながら旧聞にも程があると思うが、2012年にモロッコで起きたオスプレイの墜落事故に関連して、ティルト・ロータ機の操縦システムにおけるフール・プルーフ設計について書こうと思う。

フール・プルーフ設計とは、安全性設計概念のひとつで、人間が「やってはいけないこと」をやってしまっても安全なように、あるいは、「やってはいけないこと」ができないように設計しておく、という考え方だ。
日本語では「馬鹿対策」などと汚い言葉で表現されることもあるが、人間は必ずミスをするものであり、本来すべきではない操作をやってしまうものだから、対策をとっておこうというのが、このフール・プルーフである。

さて、モロッコで起きたV-22墜落事故の概要は、以下のようであった。

1. 同機は海兵隊員12名を降ろした後、離陸して地上6mまで真っ直ぐ上昇、副操縦士が右ペダルを踏みこんで右回りのホバリング旋回に移った。
2. 高度14mほどでホバリング旋回を終え、そのままエンジン・ナセルを87°から71°まで前方へ傾けて、25ktの背風を受けつつ遷移飛行に入った
3. ナセルを前方へ傾けたことで重心が前方へ移動して機首が下がり、しかも追い風で水平尾翼が押し上げられ、機体は前のめりになって墜落した。

墜落の原因は、前進速度のない状態で、しかも25ktの背風を受けつつ、遷移モードに移行してしまったことである。

オスプレイの操縦マニュアルによれば、エンジン・ナセルを傾けて遷移モードに入るには、尾翼の下向き揚力が十分に得られるよう、まずヘリコプタ・モードで40kt以上の前進速度をつけなければいけない。
ところが、この事故においては、前進速度ゼロ(背風の影響を加味すればマイナス25kt)で遷移モードに入れてしまったため、頭下げが抑えきれずに前のめりに墜落したのだ。
正しいプロシージャ(手順)と事故機の事例を図示すると、下の図1のようになる。

図1. V-22の飛行モード遷移

図1. V-22の飛行モード遷移


ここで、パイロットがマニュアルに従って操縦していれば、当然このような事故にはならなかった。だから、事故の原因はパイロットの誤った操作というヒューマン・エラーである。
しかし、ここで起きたようなパイロットの誤操作は、十分危惧されるものだ。
なぜなら、遷移モードに移る前にヘリコプタ・モードで40kt以上まで加速するという操作は、必ずしもパイロットの直感にそっていないからだ。
図1の正しいプロシージャを見てわかるとおり、オスプレイの飛行モード遷移は、飛行状態のフェーズと一致していない。そのため、パイロットの直感的な操作として、加速フェーズに入る際、直に遷移モードに入れてしまうという誤操作が起きてしまったのである。

さて、ここで冒頭に触れたフール・プルーフについて考えてみる。
こうした誤操作で事故に至らないようにするには、40kt以下ではパイロットが操作しても遷移モードに入らないよう、操縦系統にプロテクションをかける方法が考えられる。誤操作を予期したフール・プルーフだ。
なぜオスプレイにそのようなプロテクションがないのか、防衛省の調査チームが照会したところ、遷移モードによる滑走離陸を想定しているためだとの説明があったようだ。
しかし、それならWOWスイッチ(Weight on Wheel Switch:車輪にかかる荷重を検知するスイッチ)を使うなどして、飛行状態にあるときだけプロテクションを効かせればよいのであって、必ずしも十分な説明ではない。
はっきり言えば、オスプレイの安全性設計に抜け穴があったとしか言いようがない。

では、現在開発されている民間向けのティルト・ローター機、AW609ではどうなっているだろうか。
先の図1に準じてAW609のプロシージャを示したのが図2である。

図2.AW609の飛行モード遷移

図2.AW609の飛行モード遷移


ご覧のとおり、機体の飛行モードは飛行状態フェーズに一致している。
更に、飛行モードの遷移は、V-22オスプレイのようにナセルの傾きをレバーで制御するのではなく、操縦レバーに付いたスイッチを押すごとに、ヘリコプタ・モード>遷移モード>飛行機モード と変化するようになっており、ヘリコプタ・モードから直に飛行機モードに入ってしまうような誤操作もおこらない仕様になっている。
オスプレイでは考慮されていなかったフール・プルーフが、AW609ではきちんと成立しているのだ。
少なくともこの点では、オスプレイの安全性設計がAW609に大きく劣っていることは確かだ。

もちろん、今回取り上げた内容が、直ちにオスプレイ配備基地の周辺住民に危険を及ぼすものと言い切れるとは限らない。
しかし、ティルト・ロータ航空機の安全性という観点では、重要な示唆を含む事故であったと言えるだろう。


ATD-X改めX-2の地上走行試験

2月11日、先進技術実証機ATD-X改めX-2の地上走行試験が、名古屋飛行場の誘導路および滑走路を使って行われました。
地上滑走するX-2
この後も、引き続き数回の地上走行試験が行われ、高速滑走、模擬離陸を経て、初飛行が行われることになります。
初飛行では、そのまま航空自衛隊岐阜基地に着陸し、機体は防衛省へ引き渡されることになるようです。
地上滑走するX-2
このX-2については本ブログでも何回か採り上げましたが、将来戦闘機の実現に向けては、まだ様々な課題があります。
とはいえ、本機によって大きな技術的前進がもたらされることは間違いなく、その成果が大きく結実することを祈ってやみません。

以下、本機について触れた主な過去エントリです。
先進技術実証機ATD-Xとは何なのか(その1) IFPC
先進技術実証機ATD-Xとは何なのか(その2) ステルス性
先進技術実証機ATD-Xとは何なのか(その3) 戦闘機エンジンの国内開発


中国の戦闘機用エンジン開発インフラについて

以前のエントリで、日本には戦闘機エンジン開発のインフラが整っていないことを示した。
具体的には推力15トン級の高空試験設備(ATF)がないということだ。
では、諸外国はどうなのか。
防衛省・自衛隊の平成14年度政策評価書「エンジン高空性能試験装置」の参考資料に、下表が示されている。
table
表中「空力推進研究施設」となっているのが東千歳に整備されたATFだが、空気流量70kg/secで、上限が5トン級に留まることは明らかだ。
他方、欧米のATFはケタ違いの能力を持っており、アメリカの施設などはF-35に搭載されるような推力20トン級エンジンにも対応可能だ。さすがである。

では、航空先進国と呼ばれる欧米各国ではなく、近隣諸国ではどうなのか。
特に中国では、既に推力13トン級のWS-10を実用化しており、更に推力15トンを超えるWS-15の開発も進んでいるとされている。
中国には戦闘機用エンジンを開発できるATFはあるのだろうか。

答えを言うと、少なくとも中国は推力13トン級に相当するATFを保有しており、WS-10はこの施設を使って開発されたと思われる。
先の資料には示されていないが、米国空軍が開示した資料に、その存在が示されている。
タイトルは「CHINA’S HIGH ALTITUDE SIMULATION TEST STAND FOR AIRCRAFT ENGINE UNDER CONSTRUCTION =中国が建設中の航空機エンジン用高々度試験装置」とあり、米国の防衛技術情報センター(DTIC)のサイトでPDFを閲覧できる

report
1988年に作成されたこの資料は、その前年に出された中国の刊行物を翻訳したものだ。
これによると、中国南西部に第101高々度設備(No.101 High Altitude Stand)と呼ばれるATFが建設されており、空気流量は120kg/sec、最大速度2.5マッハ、高度は25,000m(82kft)まで試験可能だという。
前掲の表にこの施設を書き足すと、下のようになる。
table2
この施設、建設着手はなんと1970年とされ、文化大革命で工事進捗は滞ったが、1980年には初期段階の試験が行われたと書かれている。
やっと最近になって5トン級ATFを整備した日本と比べれば、中国が非常に早くから航空機エンジンの自国開発を念頭に置いて、努力してきたことがわかる。
現在中国が開発中のWS-15を想定すると、このATFでもやや力不足の感があるが、おそらく既にこれよりも大規模なATFが建設されているのだろう。

巷間、中国の航空機は皆ロシア機や米国機のコピーだとか、中国には独自開発能力がないなどという戯れ言も耳にするが、こうした現実を知っていれば、彼らの技術力を見下すようなことはできないはずだ。
既に、中国の航空機開発能力は、その環境と経験において、日本を凌いでいることは明らかなのである。


先進技術実証機ATD-Xとは何なのか(その3) 戦闘機エンジンの国内開発

先進技術実証機ATD-Xに2基積まれているXF5エンジンは、日本の独自開発によるもので、推力は約5トン。
しかし、現代の戦闘機用エンジンの推力は15トン級に達しており、XF5そのものは実用戦闘機に使えるほどの出力はない。
もし、日本が独自に国産戦闘機を開発しようとするなら、以前のエントリに書いた技術要素だけでなく、搭載エンジンも課題になるはず。
しかし、これまでのように米国などの外国製エンジンを使うという選択肢を採るのは難しいだろう。
F-35やF-22に採用されているようなエンジンは、アメリカも簡単に輸出しないだろうし、推力偏向を含めたIFPC機となれば、エンジンと機体の高度なインテグレーションが必要だ。エンジン制御ソフトウェアは、機体の姿勢制御ソフトウェアと不可分になるわけだから、単純にエンジンだけを輸入すれば済む話でもない。
となると、将来戦闘機の開発のためには、エンジンの国内開発も準備しなければならない

では、日本で15トン級エンジンの開発は可能だろうか。
エンジン開発の技術的難易度は、必ずしも推力の大小だけに左右されない。
日本のジェット・エンジン産業は、実証機用のXF5だけでなく、P-1哨戒機用の実用エンジンF7の開発も成功させている。また、戦闘機エンジン用の要素技術についても、防衛省による研究試作を経てきており、設計・試作だけなら、15トン級エンジンを目指すだけの基礎的技術力はあるかもしれない。
問題は、そのエンジンをどうやって試験するかだ。

エンジンの開発には、試作エンジンを実際の運転環境で試験することが必要だ。
しかし、航空機のエンジンは高空で仕事をする。地上で運転しても、高空の運転状態を試験することはできない。
では、どうするか。
大きく分けて次の2通りの方法がある。

  • 試験用のエンジンをFTB(Flying Test Bed)と呼ばれるテスト用の航空機に取り付け、高空で運転して試験する
  • 高空の大気諸元を模擬できるATF(Altitude Test Facility)と呼ばれる地上施設で運転して試験する
  • 東千歳のATF

    東千歳のATF


    これまでの国産エンジン開発では、エンジン推力の規模等に応じて、C-46輸送機やC-1輸送機を改造したFTB機による空中試験のほか、外国のATFを借用したり、北海道東千歳に建設されたATF等を使用したりして試験が行われた。
    しかし、戦闘機用の大推力エンジンとなると、FTB機による空中試験はほぼ不可能であるうえ、東千歳のATFは推力5トン級が能力の限度である。
    つまり、日本国内には戦闘機用エンジン開発のインフラが整っていないのである。

    では、外国のATFを借用して国産エンジンを開発できるだろうか。

    日本で初めて独自の戦闘機用エンジンを開発するとなれば、ATF試験だけでも相当な期間が必要になるはずだ。仮に(もちろん有償でだが)借用できたとしても、日本側が望むように施設を専有することは難しいだろう。
    また、開発においては、途中での不具合に対応して、試験スケジュールの変更や追加にも柔軟に対応できなければならないが、外国施設の借用では、そのような対応も期待できない。

    実は、現在のF-2戦闘機を開発していた頃、次期戦闘機のエンジン開発を睨んで、国内でも15トン級ATFの建設を望む声が挙がっていた。
    しかし、なかなか予算化されることがなく、結局5トン級に妥協して事業化されたのが、現在の東千歳にあるATFだ。
    このATF建設事業の顛末から、航空機開発に携わっている我々関係者は、「これで日本での戦闘機用エンジン開発はなくなった」と理解したのである。

    さて、それから20年あまりが経過した現在、当時から各種の提案を行っていたATD-Xが完成し、将来戦闘機への足がかりとなる技術蓄積を得ようとしている。
    しかし、以上のように、エンジンの自国開発が困難な現状では、独自開発戦闘機の実現も難しい
    つまり、ATD-Xができたからといって、単純に戦闘機開発への道が開けるといった話ではないのだ。