自衛隊の中古機を輸出できない理由

YOMIURI ONLINEの報道によると、陸上自衛隊で用途廃止になったOH-6Dヘリコプターの部品が、スクラップ業者によって海外へ売却され、問題になったという。

陸上自衛隊は23日、廃棄処分にした観測ヘリ「OH6D」の部品が、海外に不適切に売却されていた、と発表した。
スクラップにすることを条件に陸自から購入した業者が、しないまま勝手に転売していたという。陸自は「売却前に武装を外しており、武器の不正輸出にはあたらない」とする一方、今後は解体の状況を十分に確認するなどの再発防止策を取るとしている。

これを受けて、一部の「軍事評論家」などが、「武器に該当しないので問題ない。むしろ払い下げ機材を輸出する道を拓くべき。」なんてことを言っている。
これは尤もらしいけれど、実はそう簡単な話ではない。

まず、陸上自衛隊のOH-6Dは、民間型式で言うと川崎ヒューズ369Dに該当する。
川崎重工業で生産した川崎ヒューズ369D(OH-6D)は、8機ほどが日本で民間登録されていたが、そのうち一部は国内で用済みになった後でニュージーランドやオーストラリアに売却された。
これに倣えば、陸上自衛隊で用途廃止になったOH-6Dも、敵味方識別装置などの軍用装備品を外せば、同じように民間機として使用できるはずだ。
しかし、法律的には、そう簡単ではない。

いや、ここで「法律的には」というのは、なにも武器輸出三原則なんて話ではない。航空法の側の話なのである。

まず、自衛隊の航空機というのは、航空法で言う耐空証明を有していない。自衛隊の航空機は、そもそも航空法の下で管理されていないのだ。
そして、こういう機体を仮に中古機として外国へ輸出したとしても、輸出先で耐空証明を受けるのに必要な証明書類もないから、輸出先でも民間機としては飛ばせないのだ。(例外もあるので後述)
つまり、いくら民間機と同じ型の航空機であっても、自衛隊機が中古輸出できないのには、武器輸出三原則以外の理由が存在する。

ただ、現実には、陸上自衛隊で使われていた富士重工製のLM-1連絡機が、アメリカの民間籍で飛んでいたりする。
私自身も、アメリカ人から海上自衛隊を退役したKM-2をアメリカで飛ばしたいという相談を受けたことがある。実現しなかったけど。
しかし、このLM-1連絡機は、そもそもFAAの型式証明もなく、通常の耐空証明は得られないから、フライアブルな大戦機(P-51や零戦など)と同様、EXPERIMENTALカテゴリーに属する扱いで飛んでいる。すなわち、実用機ではなく、ショーなどで飛ばす飛行機として認められているに過ぎないのだ。(なお、日本には同等の制度がない)

もし、自衛隊の中古機を、国内外の民間籍で活用しようとするのであれば、武器輸出三原則などと大上段に構えるよりも先に、どうやって当該航空機の耐空性を担保するのか、という航空法上の観点から法整備が必要なのだ。


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