F-2のことを書いたら「なんでカナードをやめたのか」っていうコメントがあったので、そのへんを書こうと思います。
FS-Xというのはアメリカの圧力(とアメリカの傀儡たる自民党政権)のおかげでF-16改造案に決まったわけですけど、改造案にも改造規模が小さいものから大きいものまでSX-1からSX-4まであって、そのうちカナードを装備したSX-3案が開発コンセプトになりました。
ちなみに、このうちSX-4というのはF-16を双発化するというトンデモ案だったので、却下されて当然です。
しかしジェネラル・ダイナミクス社が無理な双発案を出してきたのは、防衛庁の出した基本要求に「双発であること」があったためで、これを受けた日本企業各社は「じゃあF-18を母体にするしかねえな」と回答してたわけです。
(ちなみにこのF-18改造案も、「ホーネット2000」計画のうち、クランクド・アロー翼を採用したものがあって、これはかなり国内開発案に見た目が近いです。)
しかし空幕の大村平さんが「F-18は艦上機だから贅肉が多くて筋が悪い」と言い出したとかで、双発要求が取り下げられてF-16が採用されました。
この判断がどうだったかはさておき、このへんまでは報道や公刊文献にあるとおりです。
ここでちょっと基本的な話をすると、自衛隊の装備品を新規に調達あるいは開発するにあたっては、使用者である自衛隊が、具体的な使い方の構想を提案者側に示します。提案する側や、開発する技術研究本部(今は防衛装備庁)は、それに応じた提案を出したり、それに応じた要求性能をまとめるわけです。
これは運用構想とか運用要求というんですけど、カタログ・ミリオタとか軍事ジャーナリスト()とかは、たいていここをすっ飛ばして、おかしなことを言い出すんですよ。要求の内容は一般に明かされないので仕方がないんですが、採用された装備品を見て、どんな運用構想なのか推定してもよさそうなもんだと思うんですけど。
さて、そういうわけで、運用側が単発でいいって言うなら、単発でやるわけです。
しかし、カナードは?
FS-Xの開発が始まったころは、カナードを装備した想像図が公表されていて、実際にそれを基本に設計作業も始まっているわけです。
知らない人がいるかもしれないのでネットで探したら、懐かしい模型が三菱重工の史料室(小牧南にあった頃)に置いてあった、という写真を見つけました。
じゃーん。( ^ω^ ) ナツカシー
インテークの下に左右2枚、斜めに生えてるのが「垂直カナード」です。
斜めだけど「垂直カナード」。
機能的に。
この垂直カナードを付ける最大のメリットは、カッコよくて強そうに見えることですが、そのほかにも理由があって、それは「デカップルド・モード」での飛行が実現できるということです。
デカップルド・モードというのは、機体の姿勢と運動を切り離した(decoupled)運動のことです。
具体的には、機首を上げないで上昇するとか、機体を傾けないで横方向へ動くとか、そういう「変な動き」をすることができるのです。
これはCCVという技術の賜物なんですが、FS-X開発に先立ってT-2CCV研究機で実証されていた能力です。
技術的には、やればできることはわかっている。
でも、それがどうしたの?という話なんですよ。
このカナードを付けると、機能部品も増えるし、構造も重くなるし、空気抵抗にもなるのです。
それでも付けるということを正当化する理由は、デカップルド・モードを実現するため。
しかし、デカップルド・モードに対する要求っていうのが、突き詰めるとモヤっとしてたのです。
これは私見も含みますけど、平たく言えば「この要求値って、実は技術的に意味不明じゃね?」とか「それは本当に戦術に必要なの?」とかいう、根本的なクエスチョン・マークを残したまま、開発が始まってしまった感じす。
なので「これ・・・、やっぱり本当はいらなくね?」となるのも必然で、どこかで「やめよう」という決断を下さなければならないものでした。
この決断は遅くなってはまずいわけですが、やっぱり「基本要求」を変えてしまう大きな問題なので、簡単ではありません。結局、基本仕様が決まる技術審査で官民の合意を作り、事実上の決定が行われた後、最終的に防衛庁長官の判断を仰ぐ装備審査会で決定されたのでした。
しかし、このタイミングできちんと決着できたのは、ほんとうによかったと思います。
ちなみに、国内開発案の模型も、ganchan’s PHOTOさんのところに載っていたので、転載させていただきます。
この模型が、国内企業5社(三菱重工、川崎重工、富士重工、三菱電機、石川島播磨重工)が作成した、通称「5社案」と呼ばれる提案書に載っていたものです。
( ^ω^ ) んー。
こんばんは、Lです。カナード取り止めの件のご解説ありがとうございました。当時の航空誌の”カナードなしでも同等の機動が出来る、ニッポンスゴイ”なる解説、やっぱり御用擁護だったのですねえ。デカップルド・モードで地上掃射に便利だの赤外線誘導ミサイルなどの使用範囲が広がるだの高機動でフランカーも目じゃないだの言ってたけど、結局、主目的は対艦攻撃機、もっと言えばレーダー覆域外から長距離ミサイルを撃ち込むミサイルリアーなんだからここは割り切ったということなんでしょうか。カナード断念は当然とも思いますが、風呂敷を拡げまくって、平成のゼロ戦でしたっけ?ウブな航空ファンの期待を散々膨らませて国会を通しておきながら、結局できたものは「なんなんだ、これ」感があります。その辺の事情もこれからお話しいただけるのだろうと期待しています。日米の製造分担、主翼強度問題と使用制限?、世界最先進のFCSトンデモバグ問題、ストライクイーグルよりもだいぶ高いんじゃない?問題など、ドラマの連続でしたから。 ま、フランカーでもF-18でもF-35でもアローでもTSR2でもF-111でもドラマに次ぐドラマなんですから自然ちゃあ、自然なんでしょうけど。逆に言えば、最初からもっと割り切って堅実に作れば早く安く出来て、産まれた時には軍用機としては終わってたなんてことがなくてよかったのにとも思いますが。小生としてはバッカニアの臓物入れ替え、一部複合材化、あるいはデカいF-1くらいでよかったんじゃないかと。
そうそう、F-16双発型と言えば、中華民国の経国戦闘機はそういう感じなのですけど、関係はあるのでしょうか?
台湾の経国には、ジェネラル・ダイナミクスも技術協力したと聞いていますから、F-16の双発型と言ってもいい形態に仕上がっていますね。
かなりの部分でF-16の技術が入っていると思いますが、どういう具合に経国に取り入れられたか、できることなら図面や技術資料を見てみたいものです。
久々ですが関心だけはある素人として少し仮説もとい駄文を書いてみます。
ソースコードの件については、清谷さんの話も聞いていたのですが、この件に関しては貴ブログの方が説得性があるように思います。
デカップルドモードの要求に対する疑義というのは、例えばの仮定の話ですが、「プガチョフ・コブラ」あるいは「クルビット」(これらもデカップルドな飛行かと私は考えているのですが違いますでしょうか)とかがクリーン状態で出来る機動性というのが要求であったとしても、実際にコブラを実戦で使うシチュエーションが想像できない(これは戦術面に限った話ですが…)などの理由があったとかそういう意味と考えて良いでしょうか。憶測ですが、採用後将来もF-2と同世代程度の戦闘機相手には空対空戦闘で引けを取りたくないという用兵側の思惑が要求仕様となって現れたということだったのでしょうか?
概ねご理解のとおりだと思います。
T-2CCVで実証が行われたデカップルド・モードは、プガチョフのコブラと同様に、実用上の要請から生まれたのではなく、能力のデモンストレーションにすぎません。
もちろん自衛隊もそれは理解していたでしょうが、「技本や会社は実現できると言ってるし、外国に先んじて新技術を採用しておけば、有利なこともあるだろう」くらいの考えだったのではないかと思います。
しかし、技術デモンストレーションにすぎない機能が、実用機開発の提案の中に単純に結びついてしまったのは、必ずしも空自だけに責を帰すべき問題とは言えないと思います。