US-2飛行艇はインドでノックダウン生産?

US-2インドへのUS-2飛行艇輸出事業について、日印両国による具体的な検討状況が報道されている。
WEBで見つけた報道の中でいちばん詳しかったのは、ロイターの英国版記事(1月28日付)だった。

New Delhi is likely to buy at least 15 of the planes, which are priced at about $110 million each, the Officials said.

最低15機の調達が見込まれており、単価は約1億1千万ドル。
そして、価格を下げるためにインド企業へライセンスを与える事業スキームが検討されているという。

しかし、いくらインドでの生産コストが安いとはいえ、たった15機程度でフルスケールのライセンス生産をやったのでは、生産設備への投資で人件費の削減分も帳消しになってしまう。特にUS-2のような大型機では大物部品の製造設備が必要だろうが、そもそもインドでは大型機を製造していないから、必要な設備投資も大きくなる可能性が高い。それに加えて、日本のメーカーから部品製造のレベルから技術移転が必要になる。とても経済的に引き合わないだろう。
これについては、ロイターの報道が次のように書いている。

The two governments have set up a joint working group that will meet in March to consider plans to either set up a plant in India to assemble it under licence by an Indian state manufacturer.
The plan is to deliver two aircraft and then assemble the rest of the planes with an Indian partner, the military source said.

インド企業へのライセンスのもとで組立(assemble)を行う工場を立ち上げる計画が、3月の会合で検討されるようだ。この計画では、まず最初の2機を完成機で引き渡した後、残りの機体はインド側で組立ることになっているという。つまり、3機目以降は「ノックダウン方式」になるということだ。

ノックダウン方式というのは、kotobankから引用すると、次のような生産方式だ。

部品のまま輸送し、販売する場所で、あるいは購入後に使用者が組み立てること。輸送コストを抑える。自動車などの場合は、技術のある場所で部品を生産し、現地の安い労働力で組み立てることで品質の安定とコストダウンの両立をはかる。◇自動車などの生産方式を「ノックダウン方式」、組み立て式の家具を「ノックダウン家具」という。

つまり、今回のケースで言うと、機体の各コンポーネントは日本で製造して、ノックダウン・キットという形で輸出し、組立をインドで行う。インドでは部品製造などは行わず、全機組立(Final Assembly)と検査(機能試験・飛行試験)だけを行うことになる。
この方式では、製造コストの削減効果が最終組立以降の工程に限られてしまうが、設備投資は最小限で済む。合理的な策だと言えよう。
ちなみに、US-2の製造は、プライム企業である新明和工業のほか、川崎重工、三菱重工、日本飛行機が分担製造に参加しており、それぞれが製造した主要コンポーネントを新明和工業が神戸の工場で組立てている。たとえば、胴体の与圧キャビン部分は丸ごと川崎重工製だ。インドへ輸出されるノックダウン・キットは、これら各メーカーの製造するコンポーネントから構成されることになるだろう。

なお、戦後の日本においても、米国から導入した自衛隊機のライセンス生産の前に一定数のノックダウン生産を行うことが定石になっていて、段階的な技術吸収の方法として効果を上げてきた。古くはT-33もそうであったし、F-15も然りである。
既にインドには、ジェット練習機・攻撃機や、汎用ヘリコプターを独自開発してきた航空機産業基盤がある。US-2のノックダウン生産は充分可能だろう。また、日本との各種協力関係の構築に加えて、技術吸収にも期待しているという。
かなり具体性を帯びてきたUS-2の輸出計画、今後の進捗を見守りたい。


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