年明けに発生した気の重くなるニュース。
次期輸送機XC-2の地上試験において発生した不具合について
本年1月7日、地上試験機を使用して、機内の気圧を一定に保ちつつ高高度を飛行できるために必要な機体構造の強度確認のため、設計時に想定した荷重(機内外の気圧差)の約1.2倍の圧力を機内に加圧した際、同機の貨物扉、後部胴体等に損壊が発生しました。
与圧荷重試験において、貨物扉や後部胴体が「損壊」したということだ。設計時に想定した荷重の1.2倍というのは、他のニュースソースとも照らして判断すると、120%LMTの与圧荷重ということだと思われる。
航空機の構造については、実際の運用で発生する最大の荷重を制限荷重(LMT)として、この制限荷重までは有害な変形を起こすことなく耐えなければならない。
また、制限荷重(LMT)の1.5倍、すなわちLMTの150%を終局荷重(ULT)として、ここまで破壊することなく耐えることが要求される。
航空機の荷重というと、旋回などに伴う運動荷重(いわゆるGというやつだ)を思い浮かべる人が多い。しかし、設計において厳しい条件となるのは、必ずしも運動荷重とは限らない。広い与圧空間を持つ大型機では、胴体構造にかかる与圧荷重への対処が大きな設計課題である。
今回の不具合が出たのは、高々度でも機内の気圧を保つための「与圧」荷重に関わる試験だ。
防衛省の発表では「貨物扉、後部胴体等」とある。
軍用貨物輸送機のXC-2では、後部胴体を楕円形に絞りながら跳ね上げ、その下面に平坦な貨物ドアとランプドアが付いている。旅客機のような円柱形の胴体は与圧に耐えやすいが、貨物輸送機の後部胴体は条件が厳しい。
また、本機のように貨物扉で与圧を受ける構造は、日本では開発経験がない。かつて日航製が開発したC-1輸送機は、本機と違って観音開きのペタル・ドア方式を採っており、与圧を受けているのは機内にある耐圧扉とランプ扉である。
今回の報道発表では「損傷」ではなく「損壊」という表現が使われている。
与圧試験で構造損傷が起きれば、文字通り爆発的な破壊に繋がることも考えられるが、文面からもダメージが大きいことが伺える。
強度試験では、亀裂の発生や金具の破断などの損傷が生じることは当然だ。そういう不具合を解消していくことも試験の目的であって、それらはいちいち発表されることではない。
しかし、今回のように供試体の「損壊」となれば事態は深刻である。不具合原因の究明に時間がかかるうえ、修理は大規模になるため、スケジュールとコストへのインパクトが極めて大きいことが予想できる。試験の精度や妥当性を確保するための技術作業も相当な工数が必要だろう。
つまり、ここで問題になり、発表され、報道にまで至っているのは「強度試験で構造不具合が見つかっている」という報告ではなく「試験機体が壊れてしまって、今後のスケジュールが大きく狂う」ことなのだ。
以下、twitterから拾った巷の面白コメント集
「トラブルというか、不具合を洗い出すための与圧試験ですからね。」
「設計時の想定より1・2倍の圧力をかける時点でおかしいですよねぇ? それは設計は想定してないよとしか。」
「朝日新聞って「研究開発」がどのような物か解っていないのでは?開発途上でいろいろな事が起こった方が良いでしょう。」
こういうコメントはたいてい兵器マニアな人たちだが、今回の報道内容を受けても何も理解できていない。
当該分野の知識が背景になければ、いくら情報が開示されても、汲み取るべき事実や意味を読み取ることは難しいということだ。
正しく情報を伝えるというのは、ほんとうに難儀なことである。
まあ試験でこういった欠陥が見つかることはいいことだと思いますよ
ただそう発言している人の中に開発が遅れることが抜けている人は某まとめサイトにもたくさんいました・・・。中国のY-20馬鹿にする前に自国の飛行機の開発の遅れを心配しろとは思います。自分は技術関連はさっぱりですからブログ主様のような技術屋さんの話は非常に助かります。住重がライセンス生産の機銃の品質を落として売っていたりと日本も多くの穴があることを忘れてはいけませんね。
陸の幹部候補生目指していた自分にとって住重の件は衝撃を受けましたね・・・。
一応機関銃の質が外国産に比べ遥かに悪いことは噂では聞いていたのですが、それが技術的問題ではなく企業側の利益のためだったのはショックでした。自衛隊側も天下り先の住重さんとの癒着で強く言えなかったようです。銃は安いので最悪不具合分を国外から輸入すれば済みますが、日本の軍需産業に大きな波紋を与えた一件だと思います。
コメントありがとうございます。
XC-2の件、スケジュールの面で供試体の損壊は大きな痛手です。
慎重に試験を進めていても、こういうことが起こり得ます。
原因の是正は当然ですが、そのうえで可能な限りの日程リカバリーを図る必要があります。(もちろん、お金も必要です。)
住重の件、私は銃器については全く素人なのですが、防衛装備品の品質管理という面では、いろいろ考えさせられました。
もちろん検査結果の改ざんなどはあってはならないことですが、その背景にある問題を直視して改善しないと、実質的な解決にはならないでしょう。
そもそも、検査基準は、技術面や実行面で妥当なものだったのでしょうか。
ものづくりの現場では、実現が困難な基準がひとり歩きしてしまい、それを改めることができないまま、検査が形骸化したり、ひどい場合はデータ改ざんの常態化が起きてしまうことがあります。
全くの憶測ですが、モラルが低いとも思われない日本の大企業での不祥事であり、ひょっとして、そういうことが起きていなかったかな、と思ったりしています。
ともあれ、早急に事態の改善が図られ、適切な調達が行われるようになることを祈りたいです。
なお、私も昔、地方連絡部(今の地方本部)の隊員さんに乞われて、入隊意思もないのに空自幹候を受験したことがあります。どう間違ったのか筆記試験に合格してしまい、奈良基地で身体検査や面接を受けました。懐かしい思い出です。