最近では朝日新聞の紙面にも載っていたのだけれど、以前からUS-2については、こんな主旨の報道が重ねて流れている。
「敵味方識別装置などの装備を外せば武器輸出に該当しないので、US-2は民間機として輸出することに問題ない」
そんなわけないだろう。国交省はなんか言えよ。
そもそもUS-2は民間機としての型式証明を得ていないし、耐空証明が得られない航空機だ。
それでも飛んでいられるのは、航空法の下で飛ぶ民間機でなく「自衛隊機」だからである。
もっと端的に言えば、US-2は民間機として飛ばすことが許されていない航空機だ。
US-2は民間機として登録しようにも耐空証明が出せないので登録できないし、輸出しようにも輸出耐空証明が与えられない。
更に言うと、仮にこれからUS-2を審査して型式証明(耐空証明)を与えようとしても、不可能なのだ。本機の飛行特性は特殊であるため、承認基準である耐空性審査要領を満足することができない。逆の言い方をすると、本機のようなパワード・リフトSTOL機に適用できるカテゴリーが、耐空性審査要領(米国の14CFRにも)に存在しないのだ。
実は、こういうパワード・リフト機の安全性を担保できる審査基準設定に向けて、実機を使った飛行実験が日本で行われたことがある。それがSTOL実験機「飛鳥」だ。
「飛鳥」の開発と飛行実験を行った航空技術研究所(NAL)では、アメリカのNASAなどとも協力して耐空性基準策定を図ったのだが、世間はすぐに「パワード・リフト」による民間STOL機への興味を失ってしまい、結局は具体的検討に至らなかった。
(ちなみに現在FAAで検討されている「パワード・リフト」カテゴリはティルト・ロータ機が対象で、US-2や飛鳥のようなSTOL機を指すものではない。)
そんなわけで、よほどの詭弁を弄さない限り、US-2を法的な意味で「民間機」として輸出できる見込みはない。
できるとすれば、「軍用」の装備を取り外し、「武器」に該当しない航空機として、(民間ではなく)外国政府機関に販売する、ことである。
このとき、購入する外国政府機関が「軍」なのか「沿岸警備隊」なのか、僕にはわからないし、そのことには特段の意味を感じない。
輸出交渉が取り沙汰されているインドの購入目的は、同国が導入するP-8哨戒機などへの救難支援だろうから、いくら外面を取り繕っても実質的には「軍用救難機」の輸出にしかならないだろう。
当然、インドは輸入したUS-2に自前の「敵味方識別装置」を積むことになり、それは日本側の知ったことではない、という筋書きになるのだろう。