先進技術実証機ATD-Xはステルス機であり、被発見性低減の要求を満たすべく機体形状が決定されている。
この設計による被探知性(RCS)の低減効果を確認することも技術実証の一環だと思うが、これは実用ステルス機開発の技術要素としては第一歩にすぎず、実際にステルス戦闘機を開発するには、まだ多くの技術課題が存在している。
たとえば、ステルス性確保のためにミサイルなどの武装を内装化するのであれば、非定常な空気流を生むウエポン・ベイからの武器発射についてのノウハウや、ステルス性を損なわないように十分な剛性を持つウエポン・ベイ・ドアの設計基準策定などが必要だが、これらは日本にとって未経験分野である。
現在では数値風洞(CFD)によるシミュレーションやFEM解析が発達しているものの、実設計に適用できるノウハウを得るには、やはり実大研究試作を欠くことは難しいだろう。
韓国が開発を決めているKF-X計画においても、AAMを胴体下に半埋込み式で装備する構想模型が示されたことがあるが、これなども、機体のコンパクト化と技術リスク回避策として、ひとつの選択肢ではあるだろう。
もうひとつ気になるのは、別のエントリでも書いた排熱対策だ。
ステルス機では排熱を逃がす開口部を設けにくいことが問題になるが、公表されたATD-Xの動画や写真では、エンジン・インテークの上面あたりに、ぼかしを入れた開口部がある。たぶん熱交換器の開口部だろうと思うが、本格的にRCSを低減しようと考えるなら、エッジをセレーション整形したり、電波反射低減メッシュを貼れば良いというものではないだろう。実用戦闘機ともなれば、実証機とは異なり、消費電力の大きいレーダーやECMシステムが載ることになり、排熱の問題は比較にならないほど重くなるはずだ。この分野においても、なんらかの技術革新が望まれることになる。
技術研究本部では、ATD-Xを用いて従来型機との被探知特性比較を行い、脅威ステルス機への対抗能力向上に繋げることを考えているようだが、将来の国産ステルス戦闘機開発に向けての布石としては、まだまだやるべきことが多いように思われる。