韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(3)

対空ミサイルを撃つのにロックオンは必要なのか

火器管制レーダーを使ってミサイルなどを撃つ場合、目標をロックオンする必要があるだろう、ということを前回書きました。しかし、実を言うと、火器管制レーダーで「ロックオン」しなくてもよいミサイルも存在します。ミサイル自身の持つレーダーだけで目標を追いかけたり、赤外線で目標を捉えるミサイルであれば、火器管制レーダーのロックオンは要りません。
では、今回の韓国艦の場合はどうなのか。
韓国艦の使っているミサイルは、ロックオンを必要とするのかどうか。
そのへん僕は素人なので、韓国艦の火器管制レーダーとミサイルについて、ちょっと調べてみました。

今回問題になっているSTIR-180レーダーは、たいていのレーダー同様に「モノパルス方式」のレーダーです。モノパルス方式というのは、レーダーの電波でパルスを送信し、目標からの反射パルスで探知する方式です。現代のレーダーは、たいていこの方式です。

韓国艦の積んでいる対空ミサイルは、Wikipediaにも載ってるくらいで、すぐにわかりました。
RIM-7Pシースパロー。もともとは航空機用だったAIM-7スパローというミサイルを、艦艇に積む対空ミサイルに発展させたものです。誘導方式は「セミアクティブ方式」だそうです。
(航空機用のAIM-7もセミアクティブ方式)
この「セミアクティブ方式」というのは、ミサイル自身ではなく、発射プラットフォームのレーダーが発射する電波に頼りますから、ロックオンが必要なはずです。ただ、艦艇の場合は航空機と違って「オン・ターゲット」という言葉を使っている、ということをTwitterで教えていただきました。

艦艇が航空機を攻撃するには

艦艇の場合、調べた限り、また教えていただいた限り、攻撃目標の捕捉から射撃までは、だいたい以下のような流れになるようです。(簡略的に表現していますが)

  1. 火器管制レーダーで目標を探知
  2. レーダーのビーム幅を狭くするなどして、目標にオン・ターゲット(捕捉追尾)
  3. 攻撃手段(対空ミサイル、機関砲等)を選択
  4. ミサイル等を誘導するための電波を目標に照射
  5. 発射・射撃

ここで、2.の「オン・ターゲット」が航空機で言う「ロックオン」に当たりますが、ここでは武器の選択もされていない状態で、航空機の場合と違い、この時点で攻撃(あるいは模擬攻撃)の意図ありと判断するかどうかは微妙な感じです。
言ってみれば「武器を携帯した人がこっちを目で追っている」状態です。
確実に問題になるのは、4.まで進んだ段階です。
そして、4.の「ミサイル誘導電波」を発射することを「イルミネーション」などと言い、その電波を発射する機器を「イルミネーター」と言うようですが、多くの火器管制レーダーと同様、韓国艦のSTIR-180はイルミネーターを兼ねています。

「イルミネーション」の状態では、「オン・ターゲット」の状態とは違う電波が目標に照射されます。韓国艦のミサイルRIM-7Pの場合はどうなのかはっきりわかりませんが、航空機用のAIM-7の場合だと「パルス波」ではなく「連続波(CW波)」が照射されます。(最新のタイプは違うのかな?)
ですから、狙われている側は、その電波を受信することで「ミサイルが誘導可能な状態」で狙われていることを知ることができます。これはまさに「銃口を向けて狙いをつけられた」状態ですから、 この時点で少なくとも「模擬攻撃」と見なすことができ、このようなことは国際的にも禁じられています。

CUES(Code for Unplanned Encounters at Sea)

今回の事案について、防衛省は韓国艦の行動(火器管制レーダーの照射)をCUES違反だとして非難しています。

なお、韓国も採択しているCUES(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)において、火器管制レーダーの照射は、船舶又は航空機に遭遇した場合には控えるべき動作として挙げられています。

http://www.mod.go.jp/j/press/news/2018/12/22a.html

このCUESは、2013年1月に中国艦艇による護衛艦に対する火器管制レーダー照射事案など、東シナ海における不慮の衝突が懸念される中、中国の青島で開かれた第14回西太平洋海軍シンポジウム(2014年4月)で採択されたもので、防衛省が言うとおり韓国も採択に加わっているようです。
CUESに書かれている該当部分を抜き出すと、以下のように書いてあります。

この中で、一般に避けなければいけない行動として、今回の事案に関係ありそうなのは、以下の二つでしょう。
a) 砲、ミサイル、火器管制レーダー、魚雷発射管またはその他の武器を、遭遇した艦艇または航空機に照準よることによる模擬攻撃。
e) 遭遇した艦艇近傍での機動飛行(aerobatics)および模擬攻撃。

防衛省は、韓国艦の火器管制レーダー照射がCUES違反だと言っていますが、先に挙げたレーダーの作動モードのうち、どの段階を探知したのかは一切明言していません。
単に「電波が発射された」ことを指しているのか、それとも追尾されている「オン・ターゲット」状態であったのか、はたまた「イルミネーション」状態だったのか、具体的なことは一切示していないのです。
ですから、もし韓国艦がSTIR-180の電波を出していれば、それだけでCUES違反の「模擬攻撃」にあたると主張しているものと思われます。

しかし、この主張については、国内でさえ早くから異論を唱える人が出ています。
その一人が、ほかならぬ、元航空幕僚長の田母神俊雄さんです。
田母神さんは「日本が侵略戦争を起こしたのはコミンテルンの陰謀だ」という頭のおかしな作文を書いたことがバレてしまい、航空自衛隊をクビになったおじさんです。
しかし、頭の中が面白いことになっている田母神おじさんとはいえ、ミサイル部隊の幹部出身だけあって、話がミサイルやレーダーの話になるときだけ正気を取り戻してしまいます。
その話を続きに書きます。

(続きます)

関連してるかもしれない記事:


韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(3)」への12件のフィードバック

  1. 前回、コメントさせて頂いたものです。質問ですが、慣性誘導とセミアクティブ誘導を組み合わせた艦対空ミサイルも存在するようです。そのミサイルの場合、オンターゲット状態で発射し、慣性誘導で目標付近にミサイルが移動した後イルミネーターで誘導するようです。搭載しているミサイルが確実にわかっているわけではない以上、オンターゲットの時点で「模擬攻撃」とみなすべきではないでしょうか?

    1. おっしゃるとおりなので、解釈にはかなり幅があると考えます。
      レーダーの種類や攻撃手段によって、一概にどこまでとは言えないわけです。
      また、航空機と艦艇の間にも非対称性があります。
      基本的には「攻撃だと誤解されかねない行動」をするなということですから、当事者が緊張関係にあるのか、そうでないのか、によっても大きく変わってくるでしょう。
      CUESは、違反した者を罰するためのものでなく、誤解によって戦闘が発生しないようにするための申し合わせですから、これを盾に攻撃の材料に使うこと自体がおかしな話なのですが。

  2. STIR-180付属の光学カメラだけを動作させる場合、光学カメラが付属するアンテナの位置をどうやって補正しているのかが気になります。光学カメラの映像でアンテナ位置を補正しているのか、アンテナ自体から弱い電波が出て補正しているのか。アンテナ自体から弱い電波を出して補正している場合、精密な位置補正の為に周波数やビーム幅は火器管制レーダーと同程度にしていて、出力だけ小さくしている可能性があるのではないでしょうか。ようするにP-1がこの電波を火器管制レーダーと間違えて検知したのではないかと。

  3. 今回の火器管制レーダー照射問題、まるで誤警報が存在しないかのような前提の議論が多く閉口してしまいます。両国の実務者同士で話し合いながら、メーカーも呼んで分析(オーバースペックでこうなった可能性も考慮して)した方が、解決が早いような気がするのですが。

    1. まったくそのとおりです。
      誤探知の可能性が強いのではないかと思います。

  4. 初めてこちらに書き込ませていただきます。
    本来、正確を期すのであれば報道に際して「FC照射した」ではなく「ESMないしRWRがFCレーダーで使われる周波数の電波を韓国海軍艦の方向から受信した(ので韓国海軍艦がFCレーダーを照射した可能性が相当程度にある)」という内容だったんでしょうね。時間の限られたテレビの報道であれば照射されたと要約したくなる気持ちも解りはしますが。
    韓国側の動画も編集が多いとはいえ、それに対する一部日本人の対応には全く失望させられます。なぜ日本側が公開した動画を観て同じ感想を抱かなかったのかと。

    1. ふきのとうさん、おっしゃるとおりです。
      マスコミが政府の言うことを無批判に垂れ流し、憎悪煽動に加担しているようなありさまです。
      とんでもない話だと思います。

  5. Twitterで拝見しています。
    わかりましたら教えてください。
    昨日(1/5)からTwitterで一部が一斉に
    「P-1の飛行高度は200mだった。韓国は嘘をついた」
    「韓国が火器管制レーダーを照射したのがバレた」
    と叫んでいます。
    前者について韓国側が具体的飛行高度を言及したことはあったでしょうか。
    私の記憶にはないのですが。
    「高度150m、距離500m」と言ったのは日本側だった気がします。
    後者も韓国側からMW-08の使用について韓国側は説明があったと思います。
    動きがどうにもわからないです。報道からも断片的情報しか受け取れていません。
    事実関係についてご存知でしたら教えていただけませんでしょうか。
    よろしくお願いします。

    1. 韓国側からの「低空を飛んでいた」という指摘の中では、高度約1,000ft(300m)という言及があったように記憶しています。
      実際には、映像にあるとおり、1,000ft以下を飛んだことがわかっています。
      150m(500ft)というのは、そのあとで日本側が持ち出した航空法の規定にある数字ですね。
      MW-08の使用については、最初に韓国側から言及があったように聞いていますが、私自身では確認できていません。

  6. 再コメントで恐れ入ります。レーダー警戒装置ですが、第4次中東戦争の際にイスラエル軍の作戦機はCW波に対応したレーダー警戒装置を装備しておらずCW波で誘導、照準をするソ連製のSAMやAAAに対して何の対処も出来ず、結果として多数の損失機をだしたそうです。しかし従来のレーダー警戒装置をCW波にも対応する改修は簡単にできるような事ではなく一度、機体を工場等に戻す程、大掛かりな改修が必要がだったとの事です。最新鋭の対潜哨戒機であるP-1等では当時とは比較にならない程、優れたシステムを装備しているでは無いかと思われます。その様な軍事機密の塊のような物の一端を公表してまで事件を公にする防衛省の狙いは何でしょうか?。冒頭に長々と直接、関係の無い事を書いて済みません。

    1. 防衛省や自衛隊は、今回の件を外交問題化することに抵抗していたが、官邸(安倍首相)の一存で外交問題に取り上げたと報じられています。
      率直に言って、対韓世論を煽って安倍政権の支持を維持することが、今回の狙いだと思います。

  7. 再度こちらに失礼します。
    他の方のコメントとも関連するのと、世間一般の軍オタ程度の知見しかないので恐縮ですが、冷戦後期の戦闘機のRWRでもサーチかロックオンかを判別できる程度の能力は持っていたと記憶しています。ですから、防衛省公開動画の中でもある程度ESM関連が映ったりするかなと思っていたのですが、クルー間の会話以外はほぼ全てピー音だったので、あれを観た時に「これのどこが確実な証拠なのだろう?これがクルー間の実際の会話であるのは疑わないにしても、弁解しようと思えばどうとでも弁解できる内容じゃないか」と期待はずれにも似た残念な気分になりました。ある程度はESM能力を開示する形にはなると思いますが、「まあ21世紀の対潜哨戒機ならこのくらいのESM能力はあるよね」程度の情報開示で証拠となる部分を出せたのではないかとも思いますがどうでしょう?恥ずかしながら私も日本側の動画公開までは抗議はまあ妥当だろうと考えていたのですが、あの動画公開と、韓国側の主張を精査する(これなかなか日本のメディアを通してだと難しかったりするのですが)に及び抗議も尚早だったのではと思うようになりました。

    かつて話題となった尖閣の動画公開では「漁船がぶつかった瞬間」がしっかりと映っていたのに対し、今回の動画は言うなれば乗員の「うわっ、ぶつけてくる気だ」「(衝撃音)」「衝突したぞ」というやりとりだけが映っていて、(電波自体が目に見えないとはいえ)「漁船がぶつかった瞬間」が映っていないというくらいの差があるのではないでしょうか。だから韓国も(日本がそういったデータを機密の関係で出しづらいのも知ってでしょうが)周波数のデータを出せと言っている。そのあたりのことが一般の人間にあまり知られていないまま瀬取りだのなんだのと推論が先走りしている事が問題ですね。
    関心事故つい長々と書き込んでしまいましたがどうかご容赦ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください