韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(まとめのようなもの)

火器管制レーダー(以下、「FCレーダー」と書きます)の照射はあったのか、なかったのか。
僕は、防衛省が提示した映像や音声、発表内容から考えて、ほぼ確実に「なかった」と思っています。
僕以外にも、コロラド先生こと牧田寛さんが、ハーバース・ビジネス・オンラインで、日本側が出した「証拠」の問題点や、国内報道の危うさを指摘しています。
コロラド先生の記事をお読みになって、納得できた人、できない人、それぞれだと思いますが、このエントリに僕の見解をまとめておきますので、皆さんの参考になれば嬉しいです。

P-1乗員は火器管制レーダーの型式を識別できていない

まず、P-1の搭乗員は、今回の事案に該当するFCレーダーである「STIR-180」を、 機上で識別できていません。 防衛省の公開した映像で、 乗員は最後まで「FC系レーダー」だとしか認識していません。レーダーの型式を識別できていないのです。
もしP-1乗員が「STIR-180」だと識別できていたことを示す会話があったなら、日本側主張の重要な根拠になりますが、それを示す音声は、まったく映像にありません。
加えて、乗員がFCレーダーだと「判断」した根拠になった情報は、映像に一切含まれていません。戦術コンソールの表示も映っていませんから、P-1の逆探システムが、どのように情報を表示しているのかも、まったくわかりません。

つまり、あの映像を「証拠」だと言うなら、乗員の「FCレーダーらしき」「FCレーダーに間違いない」という判断は正しい、というのが前提になってしまいます。
しかし、これは全くおかしなことです。速度違反の取り締まりで「速度超過の証拠」といえば、スピードの計測結果を示すべきであって、警察官が「速度オーバー確認」と言っている映像を出したって、それは証拠にならないわけです。

僕は、最初のあの「映像」を見たとき、「これはとても危ういな。」と思いました。
「証拠」として出したはずの映像が、まったく「証拠」になっていないどころか、搭乗員の「思い込み」である可能性さえ、否定できない内容だったわけです。
そして、政府の発表は、あまりにも性急だったからです。

日本政府は確認したのか

P-1の機上ではレーダー型式が識別できていなかったとしても、P-1の逆探システムに記録された信号を分析すれば、その電波がSTIR-180のものであったかどうかは、判断できるはずです。
しかし、今回の事案が発生したのが12月20日15:00頃、日本政府が発表したのが、なんと翌日の12月21日です。この12月21日の午後14:30頃に自衛隊の河野統幕議長が官邸入りしており、この時点で安倍首相に本件の報告が正式に上がったと思われますが、その後すぐ、事件が報道に発表されたわけです。

12月21日の首相動静

戦時ならいざ知らず、平時において午後遅くに帰投したP-1の持ち帰ったデータを調べていれば、いくらなんでも翌日の午後14:30に統幕議長が首相官邸で報告するなどということは、常識的に考えて無理だろうと思います。
2013年に海上自衛隊護衛艦が中国艦に火器管制レーダーを照射された事件でも、緊急記者会見が開かれたのは、1月30日の事件発生から6日後の2月5日でした。
つまり、首相に報告が上がった時点においてさえ、P-1が照射された「FCレーダー」なるものの身元は不明だった可能性は低くないのです。そして、それを裏付けるように、12月25日の記者会見で、岩屋防衛大臣は「STIRを検知したのか」という質問をはぐらかしています。
また、同じ記者会見では、 日本側が「事実確認がないまま発表した」として「韓国側から遺憾の意が表明され」ていることが、記者からも問われています。
まさに韓国が言うとおりで、日本側はP-1の持ち帰ったデータの解析も待たず、韓国側へ確認もせず、性急に本事件を外交問題化したわけです。

12月25日 岩屋防衛大臣記者会見

乗員が火器管制レーダーだと判断した根拠は

もし、P-1の逆探システムが韓国艦のSTIR-180レーダーの電波をとらえていたのであれば、海上自衛隊はそのことを表明したはずです。
すなわち、周波数帯(Iバンド/Kバンド)の一致、パルス幅(PRI)の一致、到来方向と韓国艦位置の一致、などなどです。具体的な数字を示す必要まではありませんが、どういう諸元(パラメータ)によってSTIRだと判定したのかを示すことは、最低限必要です。
しかし、海上自衛隊は最後までそのような発表をしませんでした。
彼らが最後に発表したのは、なんとレーダーの電波を可聴音に変換した「音」でした。

この「音」は搭乗員が判断の参考にするためのものですが、「音」でレーダーの型式を識別できるわけではありません。あくまで、特徴が参考になる、というだけのものです。
しかし、日本政府が発表した「音」は特徴が明瞭で、明らかに「連続音」でした。
日本政府によると、360°回転する捜索用レーダーなら周期的な音になり、連続音であるのはP-1に指向された火器管制レーダーである証拠、だという主張です。
おそらく、P-1の乗員が「FCレーダー」だと判断した根拠は、機上で彼らが 「すごい音だ」と言っていた、この「連続音」だったのでしょう。
しかし、これは果たして正しかったのでしょうか。

たしかに、ビームが360°回転している捜索レーダーの電波なら、周期的に音が変わるなどの特徴を示し、ビームが自機を追尾している火器管制レーダーなら、連続的な音になるのかもしれません。
しかし、ラジオ放送や電波信号などのように指向性を持たない電波なら、やはり火器管制レーダーと同様、音は連続的になるはずです。
つまり、「音が連続的だからFCレーダーだ」というのは、「証拠」とするには、あまりにもいい加減な根拠です。
日本政府が発表した「音」を分析した韓国の専門家によると、あの「音」にはSTIR-180が使っているカセグレイン・アンテナの特徴がなく、STIR-180のものではない、とのコメントが出ているようです。

海上自衛隊は嘘をついていない

海上自衛隊は、くだらない「音」なんかを公開するくらいなら、さっさと「P-1の逆探システムに記録された電波諸元(パラメータ)がSTIR-180と一致した」と嘘をつけばいいのです。
自民党・安倍政権では、自衛隊の「日報問題」や、「森友学園・加計学園の問題」、あげくに経済統計など、平気で公文書を偽造・隠蔽・廃棄しています。
僕は、この韓国艦レーダー問題でも、「嘘」や「でっち上げ」の証拠が出てくるのではないかと危惧していましたから、海上自衛隊から「 電波諸元(パラメータ)がSTIR-180と一致」という説明が出てくるのは時間の問題だろうと思っていました。

しかし、僕の予想に反して、海上自衛隊は最後まで、証拠の捏造や嘘の発表をしなかったように思います。
あの「映像」も「音」も、とても証拠とは言えませんが、嘘ではありません。
間違いなく、搭乗員が「FCレーダー」だと判断した様子を撮影した映像であり、あの音がその根拠だということでしょう。
官邸から「証拠になるものを出せ」と言われて、海上自衛隊は、FCレーダー照射の証拠ではなく、搭乗員がFCレーダーだと判断した「根拠」を出したわけです。
つまり、それしか出せなかったのです。

海上自衛隊は 、わかりやすい「嘘」をついてしまえばよかったのに、なぜそうしなかったのか。
もし、そうしてしまったら、その影響は決して小さくないからだと思います。
これまで海上自衛隊が示してきた資料だけなら、 少なくとも彼らは「嘘をついていない」ことが、 韓国を含む外国の軍関係者に対しても明らかです。しかし、限度を越えて、ありもしない証拠を捏造してしまったら、彼らの国際的な信用は大きく揺らぐことになるでしょう。
海上自衛隊も安倍政権と心中するわけにはいきませんから、ぎりぎりのところで踏みとどまったのではないか。僕は、そんなふうに思っています。

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韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(まとめのようなもの)」への9件のフィードバック

  1. なるほど、ズブの素人ですけど、自分もあの「音声」に関しては、こんなんで証拠になるのかなとは思ってました。しかしですよ、アメリカの元軍人は確かに自衛隊の言ってることは正しいと言ってたような。少し話しはそれるが、後で韓国側が出した「低空威嚇飛行」の画像に関しても意見を聞きたいですね。あの画像だって何ら証拠にならないのでは?

  2. 面白い記事だと思います.
    ただ一点だけ.
    電波も音も波なので波について議論するためには基本的にスペクトルを解析しなければなりません.哨戒機でも照射されたレーダ波の解析を行うものと考えられるので,公開された音が「すごい音」とするのは変な話です.おそらく,自衛隊員が聞いたのは照射を受けて機内で鳴っていた警告音では?公開された音声は加工がされていて全く聞こえませんが,一瞬聞こえる箇所があります.
    さらに,「逆探システム」は簡単に言うと「指向性を持ってレーダ波を探知するシステム」と「回転してレーダ波を探知するシステム」があります.「音」にもこの特徴が反映されることを考慮する必要があります.

    レーダの諸元等々は機密なので,素人では分かりづらく,さらに電波を音波に変換して公開するしかないモノと思います…

    “「めちゃくちゃすごい音」の意味するところとは? 韓国駆逐艦レーダー照射事案、公開された音声を解読する。”っていう記事が面白いので参考まで.

  3. タイトルひとつ目から衝撃を受けました。何を調べて居たのでしょうか…?それともただ「日本が悪い」と断定したいだけなのでしょうか。
    ハーバービジネスさんの記事の方が説得力ありましたよ。あちらの記事は内容はともかく面白かったですし、納得させるような書き方でしたので。

    レーダー波に関してですが、哨戒機では探知はできても特定は出来ません。レーダー波は指紋の様に艦別で特性が若干違ってきます。今回照射されたとしているFC系はオランダで設計、製造されたレーダーです。通常、味方艦に対してレーダーを照射するなんてあり得ないので、レーダーの指標となる特性は味方間で共有されます。その情報は敵にとっては喉から手が出るほど欲しい物なので、オンライン上には置いて置けません。よってオフラインのデータとして保存されます。外部に持ち出して、万が一流失でもしたら本当にヤバい代物ですからね。それが、自衛隊の情報部隊にあると考えられます。それの特性と今回収集されたデータが酷似していたなら、照合に時間がかからなくてもなんの問題もありません。2013年の例を出していましたが、敵国のレーダーで情報がない上、外交問題で戦争になりかねない以上、問題を公表するかでゴタゴタしていたと見るのが普通ではないのでしょうか。2013年に関してはあくまで、個人的見解ですが。

    あなたは日本の”国産哨戒機”という言葉に期待しすぎなのではないでしょうか。自衛隊や他国の軍隊の装備は役割に特化しています。また、重要なデータは基本的に前線には持ち込みません。戦いの常識だと思うのですが、平和ボケしすぎでは…?
    コメントは今後しないと思いますが、次の記事はもう少し調べてから書いて欲しいです。中立派がどちらに傾くかわかりませんので。

    1. 哨戒機が対峙する艦艇は、レーダーだけでなく様々な電波を出していますので、それらの情報から、その艦艇を識別することができます。これは、哨戒機の逆探システムに期待される役割の第一です。
      さらに、個々の電波を機上で「識別テーブル」に照合することができるので、これによって電波源(レーダー型式)を識別できます。
      これは「”国産哨戒機”という言葉に期待」でもなんでもなく、P-3CでもP-1でも同じです。
      しかし、哨戒機の搭乗員はSTIR-180が対空火器管制レーダーだとか、そういう細かい知識は持っていませんから、そこまでの対応はできなかった(しなかった)ということです。

  4. 少しでも知能があれば日本側が証拠と言い張る主張と映像がどれだけデタラメなのかはインターネットのレーダーなど関連資料から簡単に調べられるはずなのに、日本人は心の底から韓国に対する軽蔑と選民意識からレミングスのように韓国がー韓国がーと騒ぐだけでしたね。
    その愚かさが即政権支持率に反映されるから為政者たちは笑いが止まらないわけだと。

  5. 無知がひどすぎます。
    電波についてもっと勉強してください。
    何かの記事に影響されているようですが、客観的に情報を処理するスキルを身に付けてから、こういった内容のブログを書いて欲しいものです。
    中身の無い読書感想文と区別がつきません。
    登場人物の状況や感情、置かれている立場、性格、一つ一つの言動や、その裏にあるメッセージ
    誰が何を企んでいるのか、なぜそのような振る舞いをしなければならなかったか

    最低でもこれくらいは紐解いてブログにしてくださると、人気が出ると思いますよ

    炎上商法はやめましょう、自分の価値を下げるだけです。

  6. この件に関しては国防上の機密も絡み中々解明されるのは難しいと思います。ただ日米英仏で情報は共有されてる事だろう。ハーバービジネスもこのブログもただの推理。それは読み手に思い込みからくる誤解を生むものでしかない。私もそうだが国家間の国防に関して確たる証拠もなして語るのは如何なものか。居酒屋ならまだしも。肩書きのある方が発信する情報にはそれなりの責任と覚悟が必要かと。ただ垂れ流しの情報ではあまりにも無責任過ぎるのではないか。

  7. 私の知能では真相解明できないが世論が確信している事柄について疑問を抱き仮説を提案して検証することは自由民主主義の美徳だと思うので応援してます

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