J-20戦闘機とはなんなのか

中国が近年実用化したステルス戦闘機J-20について、どんな用途を想定したものなのか、かつてはいくつかの可能性について議論があったが、最近はおおむね一致した理解が共有されている。
今さら書くのも気恥ずかしい内容になるが、ここにまとめておく。

J-20戦闘機の特徴は、ステルス技術による被探知性の低減と、大きな航続力、長射程ミサイルの機内搭載能力に優れることなどである。
また、主翼の前縁後退角が大きいことから、高速域を主な運用領域として狙った設計であろうと思われ、このこともJ-20の運用構想を推定する上での参考になる。

J-20戦闘機の武装搭載能力については、兵器倉の扉を開いたデモンストレーションでわかるとおり、長射程のPL-15ミサイルを少なくとも4発、両側面の兵器倉には短射程のミサイルを各1発搭載可能。
このうち、主たる兵装は長射程ミサイルで、短射程ミサイルは自衛用と考えられる。

J-20の兵器倉 redditより

こうした機体の特徴と、A2/AD(Anti-Access/Area Denial, 接近阻止・領域拒否 )という中国の軍事ドクトリンを考え合わせると、J-20戦闘機に課せられた大きな役割は、アメリカのAWACSや空中給油機、電子戦機などの高価値目標を、いち早く撃墜することであろう、というのが結論である。

米中衝突シナリオ

中国の主たる仮想敵がアメリカであるのは言うまでもないが、現在、海外のシンクタンクなどが、可能性の高い米中武力衝突シナリオとしているのが、台湾有事である。つまり、中国による台湾の武力統一、あるいはそれに近い事態である。

現時点では、このシナリオに喫緊の「リアリティ」はあまり感じないが、日本を含む周辺各国の軍隊は、そうした「最悪の事態」に備えて整備されつつある。
そして、J-20戦闘機が想定する運用も、このシナリオに沿って考えられている、という見方ができる。

このシナリオを巡る簡単な地図を掲載しておく。
言わずもがな、日中間で問題になっている「尖閣諸島」や、自衛隊の配備などで揺れる石垣島や宮古島も、このシナリオに無関係な位置ではない。

アメリカの基地配置

これまでの戦争では、アメリカ海軍の空母航空団が、洋上から作戦地域へ思うまま航空戦力を投射してきたが、中国が相手となると話は別になる。中国は「空母キラー」と称される対艦弾道弾も実用化しており、水上艦艇や潜水艦などの海軍力も併せ、アメリカ機動部隊を遠ざけておくのに十分な力を持つに至った、というのが、今日では常識的な見立てである。
これが、 A2/AD(Anti-Access/Area Denial, 接近阻止・領域拒否)と呼ばれる中国の軍事ドクトリンで、ここ30年ほどの間、中国はこの能力を確立するために力を注いできた。

となると、アメリカの航空戦力にとっては、 沖縄の嘉手納基地が重要になる。また、台湾を睨む位置には、石垣島、宮古島、下地島などの民間飛行場があり、有事となれば、これらの飛行場もなんらかの形で利用されるだろう。
しかし、嘉手納も含め、これらの飛行場がアメリカの台湾防衛作戦の拠点たり得るとは、考えられていない。

もし、中国が台湾の武力統一を企図した行動を起こせば、アメリカ軍が利用する飛行場は、たとえ日本国内であっても、緒戦で攻撃の対象になる。
この攻撃とは、滑走路を含む施設の無力化や、基地に置かれた航空機の破壊であるが、中国の弾道弾や巡航ミサイルなどに対し、嘉手納を含む日本国内の飛行場は全く脆弱である。
地上に暴露された駐機施設、貯油施設、支援施設など、まったく抗堪性は備えていない。本格的な武力衝突にエスカレートするのであれば、これらの飛行場は「使えないもの」と想定しなくてはいけない。

ちなみに、かつての冷戦時代、ソ連の侵攻に備えた自衛隊でも、北海道の千歳基地は開戦劈頭に機能を失うことを想定していた。航空戦力の運用拠点は、三沢、八戸、松島、場合によっては百里など、本州の基地とするのが前提だったのである。

また、日本の南西諸島を拠点とする航空機の動きは、地図上に「早期警戒レーダー群」として示した中国の警戒網によって、ほぼ丸裸である。
F-22やF-35、B-2などのステルス機は見つからないだろう、と思われるかもしれないが、中国が配備している早期警戒レーダーはVHF~UHF帯という低い周波数を使うもので、これにはステルス機も映ってしまう。
中国では、アメリカがステルス航空機の開発と配備を進めるのを眺めつつ、その対抗手段の研究開発と実用配備に、早くから熱心に取り組んできたのである。

グアムを拠点とした場合の航空作戦

上に書いた事情から、アメリカにとって台湾有事の航空作戦拠点は、グアムまで後退を強いられるというのが、当今の有力シンクタンクに共通した見立てである。しかし、地図で見るとおり、グアムから台湾までは、かなりの距離がある。

戦闘機の戦闘行動半径は、最大おおよそ1,000km~1,500㎞と見積もられるが、中国本土を出撃する戦闘機が沖縄までを行動範囲に収めるのに対し、グアムを発進したアメリカ戦闘機は、空中給油なしでは台湾に到達できない。

20世紀末からの湾岸戦争やコソボ紛争では、航空作戦が大きな役割を果たし、アメリカに多くの教訓と経験をもたらした。しかし、それらの作戦では、アメリカ(とその同盟)軍は、作戦地域からそう遠くないところに、かなり安全な航空基地を確保できるという条件があった。
台湾有事における航空作戦は、これら過去の作戦とは条件が大きく異なり、アメリカにとって経験のない、大きな困難を伴うものになるだろう。

もう一つ、アメリカが近年の航空作戦で得た教訓は、空中指揮管制機(AWACS)、空中給油機、電子妨害(電子戦:EW)機など、作戦を支援する航空機の需要が非常に高く、これら部隊のワークロードが限界まで上昇したことであった。
この種の航空機は、HD/LD(High Demand, Low Density:高需要、低密度)アセットと呼ばれるが、対抗する側にとっては高価値目標(High Value Target)となる。これがJ-20の主たる標的となる。

J-20の運用

高価値目標を仕留めるのは容易ではない。前衛の戦闘機による邀撃を回避し、有効な距離から攻撃を加えなければならない。J-20は、まさにこの点を重視した戦闘機だと思う。

高価値目標を狙うJ-20は、ステルス性能によって敵からの探知を最大限に遅らせつつ、高速で(おそらくは超音速巡行で)進出し、長距離ミサイルを発射する。
アメリカのAWACSや戦闘機のレーダーはおおむねXバンドを使うから、遠距離でJ-20を探知することは困難である。J-20の機体形状について、前方のステルス性は良好だが側方には弱い、とする評価もあるが、前方のステルス性が最も重要なのである。

高速で目標に向かうのは、敵に対処時間を与えないためでもあるが、ミサイル射程を延伸するためでもある。高速で放たれるミサイルは、母機の運動エネルギーによって、より長い射程を得ることができる。高速巡航と長射程ミサイルの組み合わせには、この点にも大きな意味がある。

アメリカも高価値目標を裸にはしておかず、当然CAP(Combat Air Patrol)の戦闘機を滞空させるだろう。しかし、拠点飛行場をグアムとした場合、空中給油を行ったとしても、常時滞空させておける戦闘機には限りがある。
中国側も、J-20を突入させるに当たっては、Su-30やJ-16のような高性能戦闘機や電子妨害機を多数随伴させ、アメリカの防御を崩しにかかるだろう。
アメリカにとっては、航空戦力を台湾方面に近づければ近づけるほど、リスクが高まることになり、台湾海峡で航空優勢を確保することは、容易ではないと考えざるをえない。

アメリカのシンクタンクなどは、それでも最終的にはアメリカが勝利を収めるだろうとしているが、アメリカが少なくない犠牲を払ってまで台湾統一問題に介入するかどうか、それはその時が来るまでわからない。中国の海空軍力は、アメリカの介入を容易に許さないレベルに達している。

関連してるかもしれない記事:


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください