オスプレイが寒さに強いという誤解

正直なところ、これもぜんぜん関心がない話題だったんですが、なんか書いてくれというコメントをいただいたので、ちょっとだけ調べてみました。
そしたら、適当に書き流すつもりが、ちょっと親切すぎる記事になってしまいました。

北海道での演習に参加したオスプレイ

北海道で行われた演習に参加した米海兵隊のMV-22オスプレイが、ろくに飛びもせず、帰路には「凍結警告灯」が点灯して仙台に緊急着陸したことで、東京新聞の半田滋さんが「寒さに弱いオスプレイ」と揶揄する記事を書きました。
オスプレイ・ウォッチャーみたいな感じの半田さんとしては、こういう揶揄もしたくなるというのは、まあわかるような気もします。

そうすると、お約束の「三文字さん」が出てきて「オスプレイが寒さに弱いという誤解」という作文を書き、「寒さに強いことを以前から実証し続けています。」などと意味不明なことを述べております。
もちろん、寒冷地の演習に参加するのは、寒さに強いことを実証するためではないのですが、そこは三文字さんです。「弱い」と揶揄されたら「強いぞ」って言い返すところが幼児じみてますが、定常運転です。

で、半田さんも三文字さんも「飛行マニュアル」を見ると、なんて書いているんですが、そんなの三文字さんに読めるわけないじゃん・・・・、などと思いつつ。

飛行マニュアルを眺めてみる

「飛行マニュアル」というのは、今回のMV-22の場合は海兵隊機ですから、米海軍のNATOPSという形式のFlight Manualが適用されます。
どこで拾ったか覚えていませんが、僕も持ってます。
ほぼ間違いなく、三文字さんが持ってるのと同じ版です。
ちなみに、空軍型のPreliminary版もあるんですが、誰か違う版のデータを持ってたら、僕にください。

オスプレイのFlight Manual

で、結論から言うと、オスプレイは着氷環境(Icing Condition)での運用について、わりとナーバスな航空機なのかな、という印象を持ちました。
着氷の警告灯が点いた、というだけで寒さに弱いというのは、やや飛躍があると思いますが、半田さんの言うことは、当たらずと言えども遠からず、なのかもしれません。

どう書かれているのか

マニュアルには、14.2.14.2.2 Inflight Icing(飛行中の氷結)の項があります。
その中から運用制限に関わる記述の一部を抜粋すると、以下のように書かれています。

本機は厳しい着氷状態での運用を禁止する。飛行中不意に遭遇した場合、翼の前縁に、艶または光沢のある氷が急速に蓄積する。そして、その氷は後方へ進展し、保護ブーツの区域後方での凍結に至ることとなる。

14.2.14.2.2 Inflight Icing. から抜粋(ブースカちゃん訳)
14.2.14.2.2 Inflight Icing. 該当部分

ここで書かれている「保護ブーツ」というのは、除氷システムを構成する主翼前縁の黒いゴム・ブーツのことで、中に空気を送り込んで膨張&収縮させ、付着した氷を剥がす仕組みです。

で、飛行の制限ですが、基本的には「厳しい(severe)着氷気象下への飛行は禁じる」という、普通の内容です。
オスプレイと似た用途が想定される米陸軍のUH-60ヘリコプターでも、防除氷システム装備機については同じレベルでした。

他機種と比べて異質な点

しかし、オスプレイの飛行マニュアルには、他機種と比べて明らかに異様に感じられる点がありました。それは他でもない、三文字さんがご丁寧に掲載した下の写真です。

これらの写真は実際の着氷状態を示したものですが、普通の操縦マニュアルには、こんなの載ってないと思います。
三文字さんの記事で「マニュアルより」って書いてあるのを見たとき、こんな写真が飛行マニュアルに載ってるのかね?と思ったくらいですが、ほんとに載ってます。
また、先述した飛行制限の箇所には、着氷現象がどのように起きるか記述がありましたが、これも他機ではあまり見ない特徴のように思います。

加えて、三文字さんも僕も持っているこの2006年の版は、たまたまですが、着氷に関する点で、とても興味深い点がありました。
というのは、この版において、着氷に関わる記述が大幅に(というか全面的に)改訂されていることがわかるからです。

改訂されたICING関連の記述

着氷に関わる記述が改訂されているのは、このマニュアル冒頭にある「INTERIM CHANGE SUMMARY」(暫定変更の概要)でもわかります。

暫定変更(INTERIM CHANGE)というのは、マニュアルが改訂されるサイクルの中間で出される技術指示で、マニュアルと合わせて適用され、多くは次回の改訂でマニュアルに編入されるものです。この版は、INTERIM CHANGE No.56の「ICING」を編入したことが書かれています。

また、上記に掲載したマニュアル本文の抜粋を見ていただくと、文章の脇に黒い縦線が入っているのがわかります。この縦線は、改訂された箇所を示すものです。
で、マニュアルをざっくり見渡すと、ICINGに関わる記述の部分に、ことごとく傍線が入っていて、INTERIM CHANGE No.56「ICING」の内容が広範にわたっていることが窺えるわけです。

つまり、このマニュアルを一瞥してわかるのは、少なくともこの版を作った2006年当時、オスプレイの着氷環境運用に関して、大幅にマニュアル改訂を要する技術的要求があった、ということです。

もうちょっと真面目に読んでみる

で、改めて先述の14.2.2項の「Icing Condition」を見てみます。
マニュアルの第14章「EXTREME WEATHER OPERATION」 で、14.2節が「COLD WEATHER OPERATION」に当てられているのです。

マニュアル目次より
目次の続き

最初に触れた14.2.14.2.2項、Inflight Icing(飛行中の着氷)には、次のようにあります。

[A] 既知または予想される着氷状況下への飛行計画は避けなくてはならない。
[B] 既知または予想される厳しい着氷状況下への飛行計画は避けなくてはならない。着氷環境への暴露は最低限にしなければならない。

[A]と[B]は違うことを言っていますが、この[A]というのはMV-22Bのうちでも「ブロックA」と呼ばれる機体、[B]は「ブロックB」の機体に適用されるということです。
つまり、ブロックBでは(おそらく装備の改善などで)着氷環境への耐候性が向上しているようですが、逆に言えば、ブロックAの機体は要求に対して不十分と見ることもできます。

これらを総合すると、着氷状況の写真を入れたり、飛行制限の記述に着氷現象に関する説明があったりという、このマニュアルに独特な雰囲気も、そうした背景によるものではないかと思われるわけです。

このへん、カタログ・ミリオタこそ食いつきそうなネタだと思うんですが、どうなんでしょうかね。

ということで

こんな具合で、技術資料というのは面白いので、読んでいるとどんどん時間がたっていきます。しかし、三文字さんが書いた作文をみると、彼はぜんぜん読めてないんでしょうね。
まあ無理もないんですけど。

こちらからは以上です。

オスプレイが寒さに強いという誤解」への3件のフィードバック

  1.  こんばんは、Lです。ご無理をご親切にお聞き入れいただき、感謝かつ恐縮至極であります。本当にありがとうございます。
     英語のマニュアルの内容と形式を子細に紹介していただき、とても為になりました。
     やはり、他の機種と比すと低温には気を使う機種なのだなあと思いました。21世紀の軍用機としてはどうなの?と思いますが、冬はシーズンオフで3か月休むというのはパイロットにとっても整備士にとっても良いことでしょう。もっとも、渡り鳥のように冬場は暖かい地方に飛んでいくのかもしれませんが。
     ところで、半田記者は、マニュアルにプロップローターの可変部ギアボックス?なり、ブレードなりが着氷する旨が書かれていると説明していますが、ブースカさんがお持ちのマニュアルには触れられていないのでしょうか?
     また半田記者の記事を見ると、結構、機体が老朽化・劣化しているけどそれを抑え込むだけの整備と補修ができていない印象です。昨今は整備性の良さ、平均故障間隔の長さ、故障の自動自己判断、モジュール化により不具合部分をちゃっちゃと交換してすぐに稼働状態に戻すといったことが航空雑誌の記事で謳われていますけど、少なくともオスプレイの場合はそうは上手く行ってないということなのでしょうか?交換部品の生産と備蓄も抑えられているか、滞っているのかなと思いました。まあ、過日の自衛隊アパッチヘリ墜落も米製整備済み中古部品の不具合だったかと思うので、米ではこの辺りへの金遣いが渋い?のかなと。そのために、工員さんは毎日がブルーマンデーだったり軍もマッコイ爺さんからサープラスを買ってたりして。

    1. あまり細部の話に立ち入ると、時間もかかるし、本質的な話にならないと思うので、個々の記述は読み飛ばして書きましたが、ギヤボックスやブレードなどへの着氷についても、個々のセクションで触れられています。
      そのほかオスプレイ独特の事柄として、着氷条件下ではヘリコプター・モードや転換モードで飛び続けないように、という触れ書きがあります。さっさと飛行機モードにして、付いた氷を振り払うべきだ、ということのようです。

      整備の問題はけっこう深刻で、おっしゃるとおりスペア部品(補用品)の供給もスムーズではないようですし、これが自衛隊での運用になったら、酷いことになるのは間違いないです。
      なにしろ機体を国産しておらず、少数機の運用なので、国内では補用品の供給体制を十分に整えることができないのです。
      このことは、これまでの輸入機で自衛隊もさんざん痛い目に遭っているはずなのですが、政治的判断で米国製品の輸入が決まってしまうので、どうしようもありませんね。

  2.  ありがとうございます。交換部品に限らず米製兵器はFMSとやらで代金先払い(追加アリ)&納期未定&違うもんが届いても文句言えない他だそうですからねえ。いっそ、米アマゾンを通じて買えば返品もできるし口コミで愚痴れるのに
     交換部品と言えば、太平洋戦争で稼動率を上げた部隊は日頃から用廃機や墜落機、他部隊が運用を諦めた機体から交換用に使えそうな部品を掻き集めておいたそうですね。それから、70年経っても交換部品の不足で運用が滞るとは
    稼動率はイランといい勝負だったりして
    スーパースタリオンの退役もその辺りなのかしら。寿命延長でもっと長く使ってもよかったと思うのですが。バカでかくてローターが7枚もあってごつごつしててテールローターが傾いていてすごくかっこいいのに

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