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C-2輸送機の輸入にUAEが興味を示していることから、UAE側の関心事である「不整地」滑走路での運用が、岐阜基地で試験されています。
しかし、この「不整地」という言葉のせいもあって、いろいろな誤解を招いているようです。
「不整地滑走路」とは何ぞや
日本で一般に「不整地滑走路」と呼ばれているのは、Unpaved Runway(非舗装滑走路)とかSemi-prepared Runway(半準備滑走路)などと呼ばれているものです。
Unpaved Runway(非舗装滑走路)については、日本語では「転圧滑走路」などという呼び方もされたりします。コンクリートやアスファルトで舗装しておらず、ロードローラーなどで転圧した地面を滑走路としたものです。
海外への侵攻作戦を行う米軍などでは、大型のC-17輸送機がUnpaved Runwayで運用されたりしますが、米軍ではこれをSPRO(Semi-prepared Runway Operation:半準備滑走路運用)と呼んでいることが多いです。
これは「そこらへんの平地に降りる」のではなく、あくまでも、地上の兵員による整地や転圧などの「半準備」(Semi-prepare)を施したうえで、滑走路に使うのです。
航空自衛隊向けのC-2輸送機はSPROの要求がなく、開発においてもSPRO試験は行われていません。
そのため、C-2がSPROを想定していないのは欠陥だとか、C-2にはできないのだ、という思い込みがあるようです。
特に、アレで有名なキヨタニさんとか、相変わらずアレなことを書いています。
「お嬢様軍用輸送機」C-2に不整地運用能力はありや?
SPROでなにが起こるのか
キヨタニさんは
不整地で運用するためには、足回りを相当強化しなければならないし、ジェットエンジンは特に異物の混入対策も必要です。
などと書いています。
しかし、SPROと言っても、脚の構造強度などは、通常の舗装滑走路を前提とした設計で、特に支障はありません。
機体の重量が変わるわけではありませんし、接地時のスピンアップ荷重やスプリングバック荷重も変わらないからです。
悪路を走る自動車ラリーとは話が違うのです。
ではSPROでなにが問題になるかというと、タイヤが跳ね上げた小石などが機体に衝突したり、エンジンに吸い込まれたりすることです。
しかし、エンジンの吸い込みについては、前脚とエンジンの配置位置が常識的なものであれば、それ以上になにか対策するのは困難ですし、それほど意味もなく、外国輸送機も同様です。
機体への異物衝突については、アンテナや灯火類などの突起物が破損したり、胴体下面の外板が痛んだりするのが心配ですが、これも外国機と変わりません。
自衛隊のC-130でもSPRO訓練をしたりしますが、これにはアンテナを移設するなどの対策をした機体が使われるようです。
C-17やC-130ではどうなのか
外国機(特に米軍機)では平気でSPROをやっている、と思われがちですが、実はそうでもありません。
上述したとおり、SPROを実施する機体になんらかの改修をしたり、C-17でも異物衝突などの問題に悩んでいたりします。
航空宇宙分野でも有力なSAE(自動車技術者協会)のサイトにも、関係するレポートが載っていたりします。
SPROに対応させるとどうなるか
では、真面目にSPROに対応すると、どういうことになるのでしょうか。
その一例として、ボーイング737にSPRO対応改修を施した事例がありましたので、紹介しておきます。
Unpaved Strip Kit というんだそうです。
まず、前輪に異物の跳ね上げを防ぐデフレクタを付けています。
後援フラップなどにも、異物の跳ね上げから機体を守るプレートが追加されています。
また、胴体下面の衝突防止灯は引き込み式にするんだとか。
面白いのは、エンジンのインテーク前方に、渦流を発生させて異物吸入を防ぐ装置が付いています。737はエンジンナセルが低い位置にあるので、特に気を使うところです。
このように、SPROでは異物対策が問題なのです。
しかし、キヨタニさんの言う
足回りを相当強化しなければならない
という話は、この737でも出てこないのです。先に説明したとおりです。
C-2のSPRO能力はどうなのか
さて、こうしていくつかのお話をしましたが、ひっ詰めて言うと、C-2でSPROをやるというのは、無理な話でもなんでもないということです。
別の言い方をすると、「できる、できない」の話ではなく「やる、やらない」の話なのです。
もちろん「やる」となったら、実際に試験を行って、離着陸時の操縦諸元や制限事項などを整理し、マニュアルなどに反映しなければいけません。
「C-2にSPRO運用能力がない」というのは、そういう作業を実施していない、ということです。
つまり
実際にA400M並に不整地運用の力を持たせれば足回りを強化しないといけないでしょう。そうならば、ただでさえも減ったペイロードがもっと減る。
というのは、キヨタニさんが、まったくデタラメなことを思い付きで言ってるだけです。また、
本来軍用輸送機に不整地運用野力が求められるのは、未舗装の滑走路だけではなく、滑走路が爆撃されたりして、臨時に復旧したような環境や、短い滑走路を急遽やっつけで延長したりして利用するようなことがあるわけです。
とキヨタニさんは書いていますが、復旧滑走路を使う話は、SPRO運用とはまったく別です。
具体的に言うと、復旧滑走路の強度(Pavement Classification Number)に対して問題のないよう、接地荷重を分散させるよう、タイヤの数や配置に配慮するとかいうことです。
復旧滑走路を使う云々は、飛行機を運航する技術者ならみんな知っているACN-PCNの話で、SPRO関係ないのです。
A400M
さて、キヨタニさんはエアバスA400Mの宣伝に感化されているようで、熱心にA400Mを推しているのですが、さすがエアバスは商売が上手だなあ、という話です。
エアバスA400MはたしかにSoft field operation能力を売りにしているのですが、これは上述したとおり、特別な設計が施されているという話ではないのです。
飛行試験などを行って、それを大々的に顧客に宣伝している、という売り方の話です。
キヨタニさんが書いている
A400Mがやったように中東の砂漠や、氷や雪だらけの原っぱで離着陸試験をするべき
というのも滅茶苦茶な思い込みで、既に書いたとおり、SPROというのは、なにもない砂漠や原っぱに、いきなり離着陸するわけではありません。
しかし、A400MのSPRO能力で注目すべきは、(キヨタニさんは知らないかもしれませんが)エアバスがASSURと呼ぶ滑走路表面評価ツールを提供していることです。
これは非舗装滑走路の表面調査や運用計画を支援するツールなのですが、機体がどうこうではなく、こういうツールの存在が重要です。こういうものは、まだC-2にはありません。
要するにレシプロ時代にあったような滑走路ですね。
清谷さんは抽象的には合ってたりしますが、細かい話は苦手な印象がありますね。
PKO考えてるなら最初から考慮しとけよってのはその通りかと。
医療キットの話とか、全く駄目じゃないんですが、当たり外れは大きいかなと思います。
「PKOを考えるなら」っていうのも、実は「印象による思い込み」です。
国連は、PKOに投入される軍用輸送機に対する要求事項や、想定する任務能力を定めているんですが、その中に「1,000m級滑走路での運用」は書かれていても、「不整地運用(SPRO)」は含まれていないくらいです。
なお、要求される通信・自衛装備とか、想定任務上の性能は、もちろんC-2も満たしています。
知らない事ばかりで嬉しいです。
不整地運用というとソ連の戦術機を思い浮かべます。Su-7とかスキッドによる離着陸のテストをしてましたし。跳ね上げる小石などを調べるために胴体下に簀の子状のものを吊るして試してたのでしょ?スキッドのみでの離着陸はやめましたが、軟弱地でタイヤが埋まらぬようにスキッドをプラスした型がありましたね。
上はまあ極端な話ですが、FOD対策には意を使っていて主輪にごつい泥除けを付けたりMiG-29やSu-27は離着陸時にインテークを板や網で塞いでましたっけ。網と言えばA-37も付けてましたねえ。こちらは不整地云々でもないのでしょうが。
ま、特に手を加えていない平地に降りるというのは空挺グライダーやシュトルヒ、ブッシュパイロットとかの仕事なんですね。
戦術輸送機としては、Il-76が飛行中にタイヤ空気圧を変えることができる機構を装備しており、通常の旅客機レベルである 5.0 atmから、2.5 atmまで下げられるとのことです。
タイヤの数を増やし、空気圧を下げ、接地面積を増やして圧力も下げれば、弱い滑走路にも降りられるわけです。
こうした工夫は、非舗装滑走路のFODとは技術的に別の話ですが、なかなか理解されにくい部分かもしれません。
お返事、ありがとうございます。
IL-76の工夫を教えていただきありがとうございます。タイヤの空気圧の変更装置と言えばソ連の装甲車やトラックの名物ですね。荒れ地を走るときには空気圧を下げて低圧タイヤにすると。輸送機とトラックで共通の機構を持つのは興味深いです。低圧タイヤと言えば、97式戦闘機にもありましたね。大型化したタイヤがスパッツに収まらないのでスパッツを外してしまうという。そうそう、ブッシュパイロットの愛機も巨大なバルーンタイヤを履いていましたっけ。また、シュトルヒなど、接地圧が下がるのでキャタピラを履かせたテストもあったかと。