スペースジェットの遅延は三菱航空機のせいだけではないと思うYO

MRJ改めスペースジェットJA26MJが、本日初飛行したとのことです。
月曜日に「水曜日に飛ばす予定だって」とは聞いていたものの、地上滑走試験の様子から、もう少し時間をかけるかと思っていたので、ちょっと意外。

スペースジェットの計画遅延については、かねてよりあちこちの「評論家」や「ジャーナリスト」から「飛行機マニア」まで、言いたい放題の評論をしていますけど、どれも旅客機開発のスキームを理解したうえで言ってるとは思えないので、ちょっと触れておきます。

三菱の見通しは、どのように「甘かった」のか

ここまで大きな遅延に至ったことについて、計画の見通しが甘かったのは、あくまで結果論としては事実です。問題は、どのような見通しを持っており、それがどう甘かったのか、ということです。

大方の論者が言うのは、防衛省機の開発経験などを過信して、旅客機開発を舐めていたのではないかということです。しかし、軍用機と旅客機における技術的および制度的な違いは、そんな素人評論家よりも、三菱航空機自身がいちばんよく知っています。
MRJ開発のはるか以前から、それが日本における民間機開発最大のリスクであることは明白で、三菱では当然そのリスクを具体的に細分化して抽出し、それぞれに対するリスク対策を検討したうえで、今回の開発に踏み切ったわけです。

ここでは、素人評論家諸氏が理解していないと思われる「日本における民間機開発」の制度的スキームと、今回の開発で出てきた問題について、外野からの推測を交えてではあるんですが、ちょっと書いてみますね。

製造国型式証明

ときどき謎の思い違いをしている人を見かけますが、MRJ(スペースジェット)に対して製造国型式証明を与えるのは、米航空局(FAA)ではなく、日本の航空局(JCAB)です。
当たり前ですが。
スペースジェットはアメリカ市場への販売が予定されているので、JCABの型式証明を得た後には、相互承認(BASA)の制度などに基づいて、FAAの証明を取得することになります。

よく引き合いに出されるホンダジェットですが、あれは日本製ではなく、アメリカで開発され、アメリカの工場で製造されていますから、あくまで米国製機であって、開発作業もアメリカFAA監督のもとで行われ、製造国型式証明はアメリカから得ています。
当たり前ですが。

日本で型式証明を取得するための各種基準としては、耐空性審査要領をはじめとする定めがあるものの、それはアメリカの基準である14CIR(かつてのFAR)の翻訳(ときどき誤訳があったりする)であるうえ、それらは審査基準の全体でさえありません。基準の細部や具体的な内容は、必ずしも明文化されておらず、技術の進歩や安全性要求の変化に伴い、刻々と変わっていくものでもあります。
そして、その変化を主導しているのはもちろんJCABではなく、アメリカFAAや、欧州EASAの定める基準が、事実上の国際基準になっている、というわけです。

メーカー側のリスク回避は

民間機の開発には、こうした制度的な背景がありますので、当初から審査当局と密接な連携のもとで行われます。設計を進めるうちに「後出し」の基準が提示されてしまうと、メーカーとしてはたまったものではありませんから、設計や製造の計画は常に審査当局との調整を踏まえて確定され、段階を踏んで進められるものです。それは、メーカーとして可能な最大のリスク回避であり、審査当局はこれに応える必要があります。

しかし、MRJでは、機体が完成して飛行試験が始まってしまった後で、この機体を見たアメリカFAAから「装備品の機器配置が問題であり、このままでは型式証明は無理」だと言われたわけです。
それなら、MRJの審査当局である日本のJCAB(国交省航空局)は、いったい何をしていたのか、と。

しかし、三菱航空機は決して監督官庁であるJCABを責めるわけにはいきませんし、素人評論家を含む世間の人たちは、こういう開発スキームなんか知らないし、調べようともしませんから、「三菱はなにをしていたのか」と思うのも当然です。

しかし、ここで言えることは、やはり三菱航空機は甘かったのです。
とりわけ、航空機産業という事業分野においては、日本という国を、そう簡単に信じたり、頼ったりしてはいけないのです。そのこと自体は、F-2開発の経緯からF-35輸入決定に至るまで、防衛需要では身に沁みているはずですが、民間機開発では、別のレイヤーでも問題があるわけです。

日本という国の問題

はっきり言いますと、日本の航空局は、旅客機製造国の審査機関としての能力は備えていません。
もちろんMRJ開発に併せてテコ入れをしましたけど、なにしろ飛行機が飛ぶようになってから専門の技術者を募集してみたり、後手に回っているというよりも、なにが起きているか想像したくもないような状況です。

MRJの開発は、国が後押ししたものでもあります。自動車に続いて旅客機を日本の産業にするのだ、と。
でもね、それぶち上げたの経済産業省なんですよね。
実際の開発で骨を折る航空局は国土交通省の機関なんですけど、経産省は、景気のいい旗を振り始める前に、実務をどうするか考えたのか、と。
僕は飛行機屋さんなので、そこが最初から気になっていたのですけど、航空局がにわか作りの組織や人員を充てるという以外に、納得できる政策が実施されることはなかったと思います。

これは政治の問題なの

先に、航空機産業において日本という国を信じてはいけない、と書きましたけど、日本という国は、民間航空機を製造する国としての行政システムが、ちゃんと整備されていないんです。これは航空局の人たちが悪いとか言うんではなくて、まさに政策を巡る政治の問題なんです。

航空機を作ったり運航したりする産業は、監督官庁を悪く言うことができませんが、ポジション・トークをしなくてもいい立場の人からは、昔から日本の航空行政についての違和感や不満が渦巻いています。

先日、ある滑空場へグライダーを見に行ったときにも、滑空場の親方みたいな人と航空局の話になってしまって、「これは政治で変えなきゃダメなんだよ。あんた出馬しないか。(笑)」なんて冗談を言われましたけど、ほんとに政治の問題です。

言うまでもありませんが、これは航空産業に利益誘導するための政治力、という話ではなくて、航空産業や航空機運用の実態を踏まえ、適切な政策を打ち出す能力のことを言っているわけです。
三菱という企業グループは、他と比較しても政治力が強大であると言われますが、経産省の支持を引き出すくらいはできても、日本の行政システムを変えてしまうことはできません。
自家用操縦士のような人たちの抱える不満と、大手重工の大型事業に関わる問題というのは、実は根底において繋がっています。

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