技術実証機X-2が初飛行から半年以上飛ばなかったわけ – 荷重較正の話

NASAでの荷重較正の一例

先進技術実証機X-2は、2016年4月22日に初飛行して岐阜基地に着陸して以来、11月下旬になろうとする現在も飛行試験を始めていない。
10月30日の岐阜基地航空祭では一般に地上展示されたが、かれこれ半年以上も飛行していないことになる。
この間、X-2は何をしていたのか。
11月18日の航空新聞社WINGのツイートが下のように報じている。


そう、荷重較正をやっていたのである。
今回は、荷重較正とはなにか、ということについて書く。

航空機の飛行試験において、機体の構造各部に加わる荷重を計測することは、しばしば重要な課題である。
設計範囲内の荷重に収まっているか、予想外の荷重が発生していないか、ということをモニターしながら、飛行試験を行うのである。
機体の各部にかかる荷重を測るためには、対象箇所に歪ゲージ(Strain gauge)というデバイスを貼り付ける。
歪ゲージは、貼り付けた部分に生ずる応力によって抵抗値が変わり、電圧を変化させるデバイスだ。これを使うことで、局部に加わる荷重を知ることができるのだ。

歪ゲージの図
歪ゲージ(共和電業ホームページより)

飛行試験機の機体各部には、この歪ゲージがたくさん貼られている。
しかし、単に歪ゲージを貼り付けただけでは、正しく荷重を知ることはできない。
当たり前だが、計測部分にかかる応力(ひいては荷重)と歪ゲージの抵抗値を、きちんと対応させておかないと、荷重を知ることができない。
そこで、実際に機体に荷重をかけ、計測部分にかかる荷重と歪ゲージの抵抗値を対応させる(較正する)作業が、荷重較正だ。
この作業の一例が、NASAのレポートの中にあったので下に転載しておく。
NASAでの荷重較正の一例
NASAでの荷重較正の一例

こういう計測作業を、主翼、尾翼、あるいは胴体に対しても行い、荷重と歪ゲージの抵抗値を対応させておくのだ。
関係者によっては、この作業を「荷重較正”試験”」と呼んだりもするが、この作業そのものは試験ではなく、飛行試験の準備作業にあたるものだ。
しかし、単に”準備作業”と言うには大掛かりな作業であり、機体のセットアップから作業終了まで数ヶ月を要するのが普通だ。
X-2が半年ばかり飛ばなかったのは、飛行試験を始める前に、この荷重較正を含む準備作業が必要だったからだ。

この荷重較正作業、通常の試作機では会社側で行うことが多いのだが、X-2の場合は防衛省に引き渡された後に実施されたということだ。
聞いているところでは、初飛行時に岐阜基地に降り立ってから、すぐに荷重較正作業にかかったとのこと。
10月30日の岐阜基地航空祭のときには普通に展示されていたから、それまでには作業が終わっていたのだろう。

このほかにも、飛行試験に備えて地上で行う作業として、機体の空力弾性振動特性を把握するための「地上振動試験(Ground Vibration Test:GVT)」などもあり、初飛行前後の試作機が地上で行うべきヘビーな作業は少なくない。
従って、ロールアウトや初飛行の前後に、数ヶ月のオーダーで飛ばない期間が存在することは、当たり前のことなのだ。


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