韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(2)

韓国艦の積んでいるレーダー

「クァンゲト・デワン」駆逐艦 (以下「韓国艦」)に限らず、ミサイルや火砲を備えた艦艇が積んでいるレーダーは、「捜索レーダー」と「火器管制レーダー」に大きく分けられます。
航海中に常用されるのが「捜索レーダー」で、自艦の周囲360度を照射して安全を確認しています。よく知りませんが、雲の位置や量などの気象情報や、他の艦船、航空機の位置、電波灯台の位置など、いろんな航海用情報を探知するのに使っているはずです。
一方、問題の「火器管制レーダー」は武器の照準や誘導に使うためのレーダーです。捜索レーダーとは違い、周囲360度を探すものではありませんから、電波のビーム幅は狭く、目標位置や距離を正確につかめるようになっています。
「捜索用レーダー」と「火器管制レーダー」の外観や動作イメージについては、ちょうど防衛省が公表した資料に図が載っていますので、下に転載します。

http://www.mod.go.jp/j/press/news/2018/12/28z_1.pdf

さて、「火器管制レーダー」は常用するものではなく、基本的に射撃を想定した状況で使われるものですが、韓国政府の記者会見では「悪天候などの場合、捜索に使うこともある」としています。しかし、この部分は注意が必要で、今回の事案に当たっては天候も良く、あくまで韓国政府は「使っていなかった」と主張しているのです。
日本側は、韓国艦がこの「火器管制レーダー」の電波を照射したと見て抗議しているわけですが、韓国政府は当初から繰り返し「使っていない」と言っているのです。
(この点は後の記事で再確認します)

韓国艦の火器管制レーダー

今回の韓国艦、広開土大王級の駆逐艦が備えている火器管制レーダーには、MW-08とSTIR-180という二つのタイプがあるようです。そのうち、MW-08は艦艇を攻撃するためのレーダー、STIR-180が航空目標(航空機やミサイル)用だということから、今回問題になっているのは、STIR-180だということになります。
防衛省が発表資料ではっきり示したわけではありませんが、韓国政府の記者会見では「日本側の主張はSTIR-180に対するものか」という記者の質問に、「そうだ」として、更に「使用していないのか」という質問に対して「使っていない」と回答しています。

記者:・・・・射撃統制レーダーはSTIR180だが、この2つは使用目的が違いますね。日本側の主張はSTIR180をつけたということですか。
答:はい、そうです。
質:で、我々はつけたことがかい、と
答:つけたことがありません

https://twitter.com/barbette_81mm/status/1077090485322174464

これを受けた日本側では、12月25日、岩屋防衛大臣の記者会見で次のやり取りがありました。

Q:韓国側は射撃管制用のレーダーと、火器管制用のレーダーを使い分けて、いわゆるMW-08のレーダーとSTIRのレーダーを使い分けていると説明していると思うのですが、そのSTIRの方は使っていないという説明だと思うのですが、日本側が探知をして発表に至ったのは、STIRを感知したということでしょうか。


A:その中身を逐一、詳細に申し上げるわけにもいかないと思いますが、防衛省側はおっしゃったようなことも含めて、海自側は分析をしております。

http://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2018/12/25a.html

上記のとおり「STIRを感知したということか?」という記者の質問に答えていません。
韓国側が「日本の主張はSTIR-180についてであった」と明言したのに、「照射があった」と主張している側が明言できないのは不思議ですが、まあSTIR-180で間違いないでしょう。
(まさかこのあとで防衛省が「実はMW-08の話だった」とは言わないでしょう)

ロックオン

さて、日本側は「STIR-180のレーダー電波を受信した」と言い、韓国側は「いっさい発信していない」と言っています。どちらかが嘘を言っているのでしょうか。
ここまでのニュースを受けて、僕がまず考えたのは、これは「ロックオン」があったかなかったかの議論ではないかということでした。つまり、電波は出していたけど「ロックオン」はしていない、という状態だったのが真相ではないかということです。
というのも、「火器管制レーダーの照射を受ける」というのは、空の世界では当たり前のことで、問題になるのは「ロックオン」されたときだけだからです。
普通に飛んでいる旅客機や小型機、あるいは領空侵犯寸前の国籍不明機も、みんな火器管制レーダーの照射を浴びます。なぜなら、世界中の戦闘機は常に火器管制レーダーを使って飛んでいるからです。戦闘機には、捜索レーダーと火器管制レーダーの区別はありません。同じレーダーで普段から前方を捜索し、射撃のときは同じレーダーで目標を「ロックオン」して、ミサイルや機関砲の照準や誘導を行うのです。
ですから、もし戦闘機に「ロックオン」されたら、その航空機は「銃口を向けて狙われた」状態だということです。
では、今回の韓国艦は、火器管制レーダーの電波を出したのか、出さなかったのか。
出したとすれば、ロックオンはしたのかどうか。
最初、僕はそれが鍵だと思っていましたが、そうではないようです。

「韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(3)」へ


韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(2)」への11件のフィードバック

  1. 「しかし、この部分は注意が必要で、韓国側は「今回は天候も良いので使っていなかった」と主張しています。」←この内容が発表されてる媒体の名前やリンク先を教えていただけますか?

  2. 唐突ですみません。昔の旧式の機械式アレイレーダーでは捜索レーダーと火器管制レーダーが別個のアンテナに成っているか、アンテナを兼用している戦闘機用のレーダーでは確かTWS機能使用時でもセミアクティブ誘導の空対空ミサイルの性能上、単機しか攻撃できない等の問題がありましたが、今はアクティブフェイズドアレイレーダーやアクティブ誘導のミサイルが普及していますので状況が違うと思いますが、その辺りは防衛省はどう解説していますでしょうか?。自分でも調べてみようと思います。また艦艇のレーダーも戦闘機と同じようにフェイズドアレイレーダーに換装されているのでしょうか?。

    1. そのへんは、続きで書いていきたいと思いますので、気長に待ってください。
      問題の韓国艦レーダーはパッシブのフェイズドアレイのようで、アクティブ・フェイズドアレイのように、ビームを自由自在にできる能力はないようです。

  3. 興味深い考察を公開していただきありがとうございます。私はこの分野は専門ではないのですが、「戦闘機には、捜索レーダーと火器管制レーダーの区別はありません。」という表現に違和感があります。レーダーは同一のものを使用しますが、広範囲を探索する状態と、ロックオンし、単一の物体を詳細に追跡する状態では必要な走査パターンが違います。そのため、どちらの目的で動作しているかはレーダーを照射されている側で確認できると思いますが、その点はどうお考えでしょうか?

    1. 基本的には、おっしゃるとおりの理解で間違いありません。
      そのあたりのことは、これから書き進める部分にある程度含まれると思いますので、よろしくお願いします。

  4. 確かに航空機の火器管制レーダーは捜索機能を兼ねているものが多いです(容積的な都合による)が、艦艇のものに関しては、特に今回照射されたと言われている「STIR-180」に関しては純粋な火器管制レーダーです。”電波は出していたけど「ロックオン」はしていない”という状態はありえません。もし照射され続けていたのであれば、シースパローを発射後即誘導出来ていた状態だということです。

    1. その点を知りたくて、僕もしばらく判断を保留していましたが、「電波は出していたけど「ロックオン」はしていない」という状態があり得ると判断するに至りましたので、このあと書いていこうと思います。

  5. CUESで禁止されているのはロックオンではなくシミュレーションだと思うのですが

  6. あと凄い音だって言ってるのはロックオンの為に収束させたんじゃないのっていう

  7. 旧式の迎撃ミサイル「ナイキ」というのがありました。それは、探索レーダーで、発見した敵航空機に対し、別の小型のパラボラアンテナから、強力な電波をビーム状にして発射し、敵航空機当たって反射する電波に向かって、ミサイルが飛んでいくものでした。このシステムが基本で今のシステムができていると思うので、探索に使用しても意味がないし、火器管制レーダーを受けた方は、今の軍用機の装備だとすぐにわかる思います。

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