韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(4)

田母神さんの見解

この問題についての元航空幕僚長田母神さんの手記が、記事になってwebにも掲載されていましたので、要点を書き出したいと思います。
田母神俊雄手記「レーダー照射、韓国軍の実力では自衛隊と戦えない」
https://ironna.jp/article/11560
(韓国軍の実力では、なんてくだりは余計な話ですが。)

 世界中の軍が日常的にレーダー操作訓練を実施しており、地対空ミサイル部隊や海に浮かぶ艦艇などでは火器管制レーダーの電波照射は日常的に行われている。そしてその電波は地対空ミサイル部隊や艦艇などの周辺にいる航空機などには届いてしまうことが多い。
 しかし、その際ミサイルが発射されないように二重、三重の安全装置がかけられており、一人のミスでミサイルが不時発射されてしまうようなことはない。
 戦争が行われている場合や情勢が緊迫している場合なら火器管制レーダーの電波照射はミサイル発射の前兆であり、危険であるが、平時においては火器管制レーダーの電波照射が行われることが、直ちに危険であるということはない。

韓国艦が電波を出したかどうかはともかく、仮に出していたとしても「危険性はない」とする意見です。
これにはまったく同感で、救難任務中の韓国艦がP-1を攻撃する理由はありませんし、公開された映像からもP-1の乗員が、撃墜の危険を感じているという様子はありません。
当たり前です。
火器管制レーダーの電波を感知したというだけで、シースパローの射撃に必要なCW波を検出したわけでもないのです。
もしそんな状態であれば、映像にあるように「FCらしき電波」とか、「いちおう(司令部に)報告しとくか」なんて言葉が出てくるわけはないのです。

陸海空自の対空ミサイル部隊では日々の訓練で、自分の部隊の上空に接近する航空機は、万が一に備えその航空機が何者であるか識別するとともに、あらゆる航空機を疑似の射撃目標としてレーダー操作訓練を実施している。疑似目標には自衛隊機だけでなく米軍機も民間航空機も含まれている。

これも普通に知られていることで、航空自衛隊のミサイル部隊出身の田母神さんは、日常的にやっていたことであり、いわば彼らの「常識」です。

 しかし、射撃管制レーダーの電波照射自体は別に危険なことではない。世界中で日常的に行われていることであり、いま日本と韓国が戦争をしているのではないのだから、電波照射とミサイル発射は別物である。
 韓国海軍が敵意むき出しで海上自衛隊に向ってきたと考える日本国民もいるかもしれないが、私はそうではないと思っている。韓国海軍の実力では海上自衛隊と戦えないことは、韓国海軍は十分承知している。

これもそのとおりで、吹き上がった一部の人たちが「アメリカだったら即座に撃沈する」なんて言ってるのは全くの嘘っぱちです。
戦闘海域で敵艦のレーダーに照射されたわけではないのですから。

P-1の探知した電波は本当に韓国艦のFCRか

さて、日本側は火器管制レーダーの電波を探知したと言い、その証拠は映像で「P-1の乗員がFCレーダーの電波を感知したと言っている」というものです。
それを「証拠」だなどと言うのは、相当無理があると思います。
P-1の逆探システムが確実にSTIRの電波を識別できているという保証など、どこにもないからです。

電波による脅威識別は簡単なことのように思われがちですが、外国の兵器を相手にしたとき、実際にどれほどの信頼が置けるのかというのは、正直なところよくわかりません。
そうしたことは、軍事技術上の秘密に属する話でもありますから、そう簡単に決めつけることができないだろうと思うのです。

ひとつの例を挙げますと、イランとイラクが戦争していた1988年に、イラン航空655便撃墜事件というのが起きています。
この事件では、当時最新鋭だったアメリカ海軍のイージス艦が、イラン航空のエアバスA300を、イラン空軍のF-14戦闘機だと誤認してミサイルで撃墜してしまいました。
原因については明確になっていないと思いますが、一説には、A300の使用する電波高度計の出す電波が、F-14戦闘機の発する電波に類似していたためとも言われています。

理由はともかく、アメリカの最新鋭イージス艦が、 大型の旅客機を、こともあろうに自国で生産したF-14戦闘機と誤認して撃墜するという、ある意味では信じがたい出来事でした。
もう30年も前のこととはいえ、電波による目標識別の難しさを示した事件です。

艇による火器管制レーダー照射事案について(5)」へ


韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(4)」への6件のフィードバック

  1. となると、やはり自衛隊は確認したかったんでしょうね。事実行為が明らかになれば、どちらかの装備もしくは行為がまずいのであると。友軍であるからなおさらですよね。
    韓国は自らの行為が問題なかったとするなら、事実行為や現場環境をきちんと精査してから、自衛隊が理解出来る事実行為と証拠を提示すれば、自衛隊の勘違いであるとなるのでしょう。それが双方による再発防止策の一助になるはずです。

  2. 「韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(2)」で
    >上記のとおり「STIRを感知したということか?」という記者の質問に答えていません。
    >韓国側が「日本の主張はSTIR-180についてであった」と明言したのに、「照射があった」と主張している側が明言できないのは不思議ですが、まあSTIR-180で間違いないでしょう。
    >(まさかこのあとで防衛省が「実はMW-08の話だった」とは言わないでしょう)

    「まさか…」と言われていますが、その根拠は何処にあるのでしょうか。
    韓国側はMW-08を照射していると言っていますので、「MW-08でない」と言えば済む話を、「照射があった」としか言わない理由が私にはわかりません。追加の発表もありません。
    この言い方はご飯論法と言われる答え方です。
    後で嘘をついたとは言われないために、質問に正確には答えず質問者のミスリードを誘うものです。
    「MW-08でない」と言う事が、なにか国防機密に引っ掛かるとは思えません。
    yuuji様は「自衛隊が理解出来る事実行為と証拠を提示」と言っていますが、被害の実態を日本側が(非公開にでも)韓国側に突きつけるのが交渉の前提と思いますが。如何でしょうか。

    いまの言い方では、当たり屋が医者にかからずに医療費を請求しているのと同じ構図です。
    韓国側に非が有ると言うのであれば、証拠をハッキリと突きつけるべきでしょう。

    韓国の発表の真偽はさておき、過去の防衛省の言動を見るにつけ、両国間の論争を煽るような発表を鵜呑みにするのは危険と思います。

    1. >「MW-08でない」と言えば済む話を、「照射があった」としか言わない理由が私にはわかりません。追加の発表もありません。
      この言い方はご飯論法と言われる答え方です。

      おっしゃるとおりです。

      私が書いたのは、さすがに国際的な場で、後から「実はMW-08の話だった」などと言い出すほど、恥知らずではないだろう、ということです。
      「当たり屋が医者にかからずに医療費を請求しているのと同じ構図」というのも、まさに言い得て妙です。
      そういう意味では、記者質問にまともに答えられもしない時点で、日本側の立場はかなり悪いと考えるのが常識だと思います。

  3. この問題、仮に韓国側の主張が全て正しかったとしても、隣国間で無線のやり取りもろくにでき無いという地獄めいた第2ラウンドが始まるという問題。
    日本側の不備は相手から反応があるまで発信し続けなかったこと、韓国側の不備は全く反応しなかったこと。
    なんで無反応だったんだろう?

  4. yakitori様
    あなたの書かれていることは、「火器管制レーダー照射事案」とはまた別の話です。
    話をすり替えていますが、何か目的が有るのでしょうか。

    色々な見解は有るとは思いますが、「https://hbol.jp/183226」でも見て考えて下さい。
    ここの記述が正しいという保証も有りませんが、なにかを隠しているような防衛省の発表より真っ当に聞こえます。

  5. 無応答については聞き取りにくく、海警への呼び掛けかと思った、などのコメントがあったと思いますが実際のところ艦内の現場にいないと不明ですね。

    もしかすると「コリアサウスナーバルシップ」に気分を害したのかもしれませんな。
    例えばあちらへ旅行中に日本語で「日王の代替わりはいつだ?」とか聞かれても私は無視すると思います(笑)

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