東レが三菱スペースジェット部品の生産停止

ニュースの概要

日経新聞のニュースが流れていました。

東レ、三菱ジェット部品の生産停止 三菱重が自社加工

東レは、三菱菱航空機(愛知県豊山町)が開発中の民間旅客機「スペースジェット(旧MRJ)」向けの主要部品の生産を停止する。

上記リンクの日経記事より

複合材部品の製造とは

東レは航空機用炭素繊維複合材(CFRP)の素材製造では世界でもトップクラスで、ボーイング社などを含めて多くの航空機メーカーに素材を提供しています。

このCFRPの素材というのは、ほとんどがプリプレグという形態で航空機メーカー(あるいは航空機部品メーカー)に出荷され、メーカーで形が与えられて部品になるのが普通です。
プリプレグというのは、炭素繊維で織ったシートに樹脂を含侵させたもので、このプリプレグを裁断、積層、成形、加工、固化することで、CFRP部品が作られるのです。

この部品製造プロセスでは、ゴミやほこりの侵入しないクリーンルームが必要ですし、切断や穴あけ加工には高性能な工作機械も必要で、なかなか高度な製造能力が求められます。
更に、従来型の熱硬化性 CFRPの場合、樹脂を焼き固めるためのオートクレーブ(大きなオーブンみたいなの)が必要です。

今回の東レ部品

今回、東レが三菱に移管することになった三菱スペースジェットの尾翼部品というのは、過去に報じられたところによると、尾翼の スパー(桁)、スキン・ストリンガーパネル(縦通剤一体型外板パネル)、リブ(小骨)だったようです。

ここで注目されるのは、これらの部品が従来型の製造方法ではなく、A-VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding:真空補助樹脂注入成形)によるものだということです。

このA-VaRTMは、高価なオートクレーブを使わない成形法として研究が続けられてきたVaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding:真空補助樹脂注入成形)を、さらに発展させたAdvanced VaRTMを指しています。

A-VaRTMの説明はネットにも出ていて、下のリンク(PDF)からも読むことができます。
「CFRP航空機部材向け革新成形技術A-VaRTMの開発」

東レがこれらの部品製造をやめた、というのは、スペースジェット(旧MRJ)の量産開始が遅れたことや、見込まれた生産レートの達成が危惧されることなどから、設備維持などの負担を避けたい狙いがあるのではないかと思います。

製造への影響

今後の製造に与える影響については、部外者には未知数ですが、個人的にはそれほど深刻なインパクトはないだろうと思っています。

三菱航空機側は今さら設計を変えることはできないので、同じ素材を東レから購入して、部品への加工を自社内で行う形になります。もし素材や設計を変えるとなると、変更後の設計に対して改めて航空当局の承認手続きが必要で、たいへんな時間と労力がかかってしまいます。

つまり、結局は東レ自身の素材を使うわけなので、東レ側も十分な技術移転協力を行うはずですし、 技術的なハードルは越えられるだろうと思います。

とはいえ、三菱側も社内での製造にあたっては、さらなるコストを要することになりますので、苦労の種が一つ増えた、と言えるかもしれません。


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