日本のF-35製造参加は諸刃の剣

航空自衛隊の次期戦闘機として導入が決まっているF-35戦闘機。非常に素性の悪いプロジェクトですが、そろそろ実用機と称する機体の製造も始まっているようで、自衛隊への導入計画についても進捗が気になります。

さて、このF-35戦闘機は世界各国で分担生産が行われますが、日本の三菱重工もこれに参画し、製造した部品を輸出することを検討していました。
しかし、先日の報道によると、三菱重工による製造参画に遅れが発生しており、先の見通しも明るくないようです。
直接的な理由としては、製造にあたって必要な多額の設備投資が挙げられています。
朝日新聞
これまでの戦闘機のように、自衛隊向けだけに製造するであれば、その設備投資もたいてい防衛省が負担してくれるのですが、外国向けの生産も含まれることから、防衛省の全額負担は望めません。となると、三菱重工はとても利益が出ないと踏んだのかもしれません。
一方、「菅義偉官房長官はこの件についてのコメントを差し控える一方、F35の計画への参画が日本の技術基盤の高度化と国内産業の育成に役立つ、との見解を示した。」とのことですが、F-35製造参加はほんとうに日本の技術基盤の高度化に役立つのでしょうか。
実は、F-35製造への参加は、日本独自のステルス機開発にとって、むしろ致命的な足枷になる可能性も少なくありません。

F-35製造に参加するとなると、当然、当該部分に関係する製造ノウハウについては、外国企業から技術移転が行われます。
しかし、そのノウハウには間違いなく「F-35製造以外への転用は厳禁」の条件が付きます。
つまり、日本が将来独自にステルス機等を開発するにあたっても、F-35の製造によって得たノウハウや設備などは使うことはできません。
また、仮に日本が先進技術実証機によって独自にノウハウを取得しても、既にF-35事業への参画で技術移転を受けていれば、外国企業から「技術流用」の批難を受ける懸念があるわけです。

国内企業が米国機のライセンス生産で技術を蓄積できた大昔と違って、この20年ほどで欧米企業のガードは非常に堅固になっています。これに伴い、国内のメーカーは安易な技術導入を行わないよう、慎重に検討するようになりました。
中途半端なF-35製造への参画も、一歩間違えば日本の技術基盤整備にとって大きなマイナス材料になりかねず、将来に禍根を残す可能性があります。
今回、三菱重工がF-35製造参加に後ろ向きな姿勢を示している背景には、単なる製品売上の損益だけでなく、そうした計算も働いていることでしょう。

しかし、兵器輸出の実績づくりを急ぐ現政権には、残念ながら長期的な技術基盤育成の姿勢が全く感じられません。
一見勇ましく見える「わかりやすい」国策は、往々にして真の国益を損ねるものであります。


日本のF-35製造参加は諸刃の剣」への2件のフィードバック

  1. うお!いつの間にかたくさん更新されていて驚きです!!

    ふーむ、自分も少し楽観視していた点はありましたが、やはりイージス艦の機密情報を流出させる国においそれと技術ノウハウを与えるわけないですね。(F-22もそれで立ち消え・・・)
    兵器輸出を目的とするならば、まずしっかりと土台を固めていってほしいのです。C-2が開発遅延したことも考えると、もう少し歩調を緩めていくべきかと思われます。しかし、現政権には何やら焦りが見えていますね。焦ったところで、良いものは作れないというのに・・・。あんまり野心的に考えずに、既存の兵器を地道に売り込んでいくことを大切にしてほしいです。

    ところで国産兵器の話題について調べていたところ隅田金属さんというブログを見つけました。その記事の中でP-1とP-8の販売競争について書いた記事がありました。この人は口が悪く、陸自軽視が酷いためあまり好きではないのですが、今回の記事は自分が疑問に感じていたことを的確についていました。この人の言う通り米国の圧倒的信頼性の高さには敵わないと思います。地盤固めは大変そうですね。

    1. ありがとうございます。
      隅田金属さんのブログは私も時々拝見しますが、ポジショントークではなく、客観的視点で書かれた、好感の持てる内容が多いと思います。
      P-8とP-1に関する一部メディアの報道については、隅田金属さんが書かれているとおり、私も馬鹿げていると思います。
      ただし、海自の運用構想に基いて開発されたのがP-1であって、両者はそれぞれ全く異なる長所を持った飛行機であり、一概にP-8が優れているとも思えません。
      日本が防衛装備品を独自開発することのメリットとしては、自衛隊の用兵構想に最適化された装備品を、安定的に供給できることが大きいです。確かに、新規開発した装備品には不具合がつきもので、完全に能力を発揮するまでには時間もかかりますが、装備品の長いライフサイクルを考えれば、産みの苦しみが報われることも多いと思います。
      もちろん、無闇な国産至上主義は戒められるべきで、用兵者の要求に妥当性があるかどうか、また、開発メリットとコストのトレードオフなど、十分な検討が必要です。
      兵器の調達に関しては、技術面、運用面、外交面など、あまりにも多くの要素が絡み合っているので、単純な結論に至ることはないでしょう。それゆえに、個々に丁寧な説明と議論が望まれるところですが、弊ブログが些かなりとも皆さんが判断される一助になれば幸いです。

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