ハドソン川の奇跡?

ニューヨークのラガーディア空港を離陸したUSエアのA320が、鳥衝突による両エンジン停止でハドソン川に不時着水し、1名の死者も出さなかったことが大きく報じられました。
当然ながらパイロットは賞賛を浴びているわけですが、その様が尋常なものではないらしく、マスコミや市民は、NY市長が発したという「ハドソン川の奇跡」という言葉で浮かれているそうです。
この状況に、歌手の宇多田ヒカルさんが、自分のブログで疑問を呈し、これが日本で更なる話題を呼んでいました。
しかし、驚いたことに、ネット上の論調を見ると、宇多田さんの醒めた見方を非難する意見が多い。
日本においてさえ、あれを「奇跡」と称することに違和感を覚えない人が多数派のようです。
・・・んー。
確かに、今回の事故で人的被害がなかったことは喜ばしいのですが、そう簡単にマスコミに踊らされて、奇跡だのと浮かれてしまうようでは、現代人として、ちょっとマズいでしょう。さすがに。


旅客機が水上で全エンジンの推力を失い、飛行場に帰り着くことが不可能な場合、水上への不時着(不時着水:water ditching)を行います。
これは、緊急手順として当たり前のことで、旅客機は、不時着水がありえることを前提に、設計、製造、運用されるのです。つまり、定められた手順で水上に不時着すれば、機体は壊れないし、避難に十分な時間、水に浮くのです。
もちろん、パイロットは、こうした手順について熟知しており、訓練もしています。
そこには 「奇跡」の介在を必要とする ことなど何もないのです。
今回の事故では、エンジン推力喪失の時点で、高度約3000ft。パイロットが正しく判断して処置を実施できる「時間」、「高度」、「速度」は、必要最低限だったかもしれません。
しかし、パイロットは何が起こったかを理解しており、空港へ引き返すという誤判断もしませんでした。
そして、不時着水のための水面は、波のある洋上ではなく、十分に広い河川だったことも好条件でした。
波のある洋上だと、波の高さや進行方向によって、不時着水の方向判断や接水のタイミングが難しくなるんです。
即ち、今回の事故は、この種の案件としては、それなりに良い条件で発生しているとも言え、通常の技量を持ち、所定の訓練を受けているパイロットなら、言われているほどリスクの高いものではなかったはずです。
(もちろん、ちゃんと全員の命を救うことができた機長には、賞賛を惜しむものではありません。)
奇跡だと言っている人たちは、何をもって「奇跡」だと言っているのでしょう?
最終的な判断は、いずれ発表されるだろう公式の事故調査報告書を待ちたいと思いますが、少なくとも、これが奇跡だなんて、航空機技術者に対しても、冷静に対処したパイロットに対しても、非常に礼を失した言い方だと指摘せざるを得ません。
どうも、自分にとって不愉快な報道に対しては「マスゴミ」だとか「偏向報道」だとか罵るわりに、心地よい報道には簡単に乗っかってしまう傾向が、最近の若い日本人にあるように思えました。
ネット右翼なんて連中もそうですが、「理性」ではなく、「気分」で物事を捉えてしまう。
・・・ちょっとヤバイんじゃないの?
goo辞書で「奇跡」を引いてみると

きせき 0 2 【奇跡/奇▼蹟】
(1)常識では理解できないような出来事。
「―の生還」
(2)主にキリスト教で、人々を信仰に導くため神によってなされたと信じられている超自然的現象。聖霊による受胎、復活、病人の治癒など。原始キリスト教では当時の魔術信仰に対抗するため、また使徒(預言者)のしるしとして特にこれを宣伝した。

お祭り騒ぎに煽られて浮かれないだけの「常識」を持ちたいものです。


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